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日本の不動産価格のインフレーション ―アメリカが主導権を握っている―

 日銀は9月20日、21日の金融政策決定会合で、この仮説が正しかったどうかを自ら検証してその結果を示す予定である。日銀に詳しい外部の専門家は「原油安と海外需要の低迷の影響が大きいと結論づける可能性がある」と予想している。しかし、「リーマンショックから立ち直った後の世界は先進国や新興国などの多極的な主体が政府主導で低成長を続ける」というニューノーマルの概念はアベノミクスの登場前(2009年~)から日本でも知られていた。世界経済がニューノーマルにあることを前提に三本の矢を放ったのだからこれらは目標の不達成の理由にはならない。

 理由はともかくとして、日銀が想定したようには世の中にお金が回らなかった。その一つの例外は不動産である。まず、銀行の不動産業への貸し出しが増えた。日本の銀行の預貸率は7割である。貸し出しできず余剰となる残り3割の資金は国債等で運用されていた。日銀の異例の金融政策により、保有している国債を日銀に売ることになった。国債売却で得た資金は余剰となるので不動産業への貸し出しに振り向けられた。金利の低下によって不動産価格の上昇が正当化されるので貸し出しの機会が増えたからだ。

 また、日銀は不動産投資信託(REIT)を購入している。これによりREITの株価が上昇し、REITは増資と借入によって資金調達の量を増やした。さらに、相続税対策のため個人による貸家業を営む富裕層が増加し地域銀行による貸し出しが増えた。

 これらのルートを通じて、不動産については、貨幣数量説に基づいて価格が上昇しインフレーションが生じたと言えるだろう。

3 なぜバブルにならない

 なぜ今回のブームはバブルにならなかったのだろうか? この問題を解くための1つのヒントは海運業が低迷していることである。図1.2に先に見た不動産株価および東証の海運業種の株価指数の推移を示す(1986年1月を100とした相対指数を示している)。この図から、過去2回の不動産バブルの時期には海運株価が不動産株価を大きく上回って急上昇したことが分かる。しかし、今回は海運株価が低迷し不動産株価を大きく下回っている。

図1.2 過去30年間における不動産価格と開運株価の推移

出所:Quick Astra-managerを用いて筆者作成 出所:Quick Astra-managerを用いて筆者作成

 また、不動産株価と海運株価の間には、統計的という意味ではあるが、因果関係がある。不動産株価の上昇(下落)に先んじて海運株価が上昇(下落)するという関係である。この事実が示唆することは、過去2回の不動産バブル期にはその構造的な要因として、貿易立国としての日本の実体経済の将来について大いなる成長期待があった。

 この成長期待が当時の海運株価を力強く上昇させた。これ自体はバブルではない。実体経済の成長期待を必要条件として、金融緩和および文化的・心理的な要因が十分条件としてそろってはじめてバブルが生じる。そして、値上がりが値上がり期待を高め、資産価格を引き上げるという予想が自己実現することでバブルが膨らむ。現在の日本では、不動産市場の参加者をこうした自己催眠的な心理に引き上げるような、将来の実体経済に対する大きな成長期待は存在しない。

 いま日本にバブルが存在するとすれば不動産ではなく国債である。10年の国債利回りはマイナスである。これをもってバブルの領域に入ったと判断する投資家もいる。マイナス金利ということは国債の価格が日本経済の実体から大きく乖離(かいり)し上振れしている可能性があるからだ。

 私は今年2月に不動産投資の実務家の方々と「2016年の不動産市場を占う」というテーマのパネルディスカッションを開催した。その後の懇親会の席上で中心となった話題は「高騰した価格で今の不動産を誰が買うのか?」であった。約10年前にも同様の懇親会に参加したが、そのときにはほとんどの実務家が「理由は分からないけど価格が上昇するから買う」と発言していた。

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