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シャープはホンハイ傘下で再生できるのか? 問われる「目の付け所がシャープ」な思想

「身売り現象」の究極要因

 究極要因は、「身売り現象は、企業行動上、なぜ有利なのか」という問いになる。至近要因から自明と思われるが、その究極要因は、以下の3つだろう。

【1】企業破たんの回避:ホンハイの救済によって、破たんを回避し、事業の継続、重要資産(顧客、人材・雇用、ブランド、技術・ノウハウ)の維持を図れるのではないか。

【2】企業再生の希望:グローバル企業として圧倒的な規模と競争力とリーダーシップを誇るホンハイ傘下で、健全さを取り戻し、再成長する余地が残される。ホンハイのコスト競争力とシャープの製品・技術開発力のシナジーが期待できるのではないか。

【3】有利な買収条件:産業革新機構からの、事業解体・業界再編・銀行債権放棄・経営者総退陣などを求める買収提案に比べ、ホンハイからの買収条件は、国際水平分業・大部分の事業存続・雇用の確保・銀行債権の維持・経営陣の残留などを謳い、有利に映った。

 買収提案が2社からしかなかったことに、シャープの苦境が表われている。生存のためには、どちらか一社を選ぶしかない。条件がよりマシで、より希望が持てそうに見えたホンハイ案を選んだわけだが、当面の危機は回避したものの、今後の再生を保証するものではない。選択の是非は、まだ不明である。

「身売り現象」の系統進化要因

 系統進化要因を検討してみよう。「優良企業だったシャープに、どのように身売り現象が生じてきたのか」という問いになる。ある程度、想像も交えて、仮説を立ててみよう。

【1】突然変異:NBOのコラムで林總氏は、こう述べる。シャープは元来「小ぶりながら、時代の流れをしっかりと読み取り、常にきらりと光る個性を持った製品を世に送り出し続けてきました。それは、シャープペンシルから始まり、ブラウン管式テレビ、ターンテーブル方式電子レンジ、太陽電池、世界初の電子式卓上計算機、ファクシミリ、電子辞書、電子レンジ、複合機、液晶テレビ、半導体といった時代の先端をいく製品でした」。まさに、「目の付け所がシャープでしょ」という同社のCMそのままのイメージである。そうした企業にとって、巨費を投じて「液晶コンビナート」を構築するというのは、次元の異なる新しい生き方であり、「突然変異」と言ってもよい位の事態に見える。「全ての商品に液晶を」という素材応用的発想は、「目の付け所がシャープ」という消費者視線のDNAとは明らかに異質だ。ユニークな製品革新を志すシャープの技術者にとって、巨大な液晶パネルをいかに作るかに汲々とするのは、違和感があったのではないか。

【2】成功の呪縛:なぜ突然変異が起きたのか。突然変異は、ランダムに発生するので、その必然性を分析するのは難しい。ただ、変異が起きやすく、また生き延びやすい環境を分析することはできる。恐らく、以下の3つの要素があるのではなかろうか。
(1)亀山方式の成功:堺工場の前に三重県の亀山に第6世代液晶パネル工場を約1000億円掛けて建設し、しかも大成功した。シャープの液晶テレビは「亀山モデル」と呼ばれ、消費者が指名買いするほどのヒットとなった。堺工場への投資は、この亀山方式の延長線上にある。堺への投資が突然変異というよりは、その前の亀山方式が突然変異というべきかもしれない。
(2)成功体験のある野心的経営者:亀山方式の推進者は町田社長、堺方式の推進者は片山社長である。町田氏は、同社の黄金時代を築いた佐伯第2代社長の女婿である。片山氏は、早くから将来の社長候補としてプリンスと呼ばれ、町田氏の指名により、創業家以外から初めて、しかも弱冠49歳で社長に就任した。二人とも社長就任前に成功体験を持ち、自信も実力もある。同時に、過去の偉大な経営者を上回る実績を挙げ、自身の「正統性」を証明するプレッシャーを強く受けてもいたであろう。過去のやり方に拘らず、新たな企業像を目指す試みに思い切って投資をしたとしても、全く不思議ではない。またソニーやパナソニックなどに対して、永年抱いてきたコンプレックスを、テレビの液晶化を通じて、昇華したいという思いがあったのかもしれない。
(3)イノベーターのディレンマ:突然変異が生き延びたもう一つの背景は、イノベーターのディレンマであろう。これは、「優良なリーダー企業が、持続的なイノベーションを追求していくと、ある時点で技術水準は顧客ニーズを超えてしまう。一方で、リーダー企業に比べ技術的には劣るが、より安価で簡便に顧客ニーズを満たせる破壊的イノベーターが、リーダー企業から顧客を奪ってしまう」という現象である。シャープの液晶技術は世界最先端、しかも技術者は優秀である。であるがゆえに、開発に邁進した結果、同社の液晶技術は大半の顧客が求めるレベルを超えてしまったのかもしれない。一方で、顧客は、シャープには劣るが、そこそこ使え、しかも安い中国・韓国・台湾製パネルで十分、と判断したのだろう。まさに、液晶のイノベーターとしてのディレンマが働いていたように見受けられる。

【3】B2Bへの傾斜:シャープは元々家電などの消費者向けの製品開発が主力であった。消費者のニーズを深く理解し、競合とは異なる「目の付け所」を発見するのがシャープの真骨頂だったはずである。しかし、ここ20年間の成長を牽引したのは、液晶パネルなどの「キー・デバイス」(中核電子部品)であり、法人向けのB2Bビジネスである。依然B2C事業はやっているものの、消費者・ユーザーからの距離は、以前よりは遠くなり、最終消費市場での変化を読む力は衰えてきたのであろう。至近要因での市場の読み間違いは、亀山方式の成功による驕りや目の曇りに加えて、B2Bビジネスへの依存度を高めたことと無縁ではないように思われる。

 こうしてみると、亀山方式による液晶ビジネスの成功が、その後の没落への伏線だったようにも思える。町田氏が社長就任に際して打ち出した「2005年までに国内で販売する全てのテレビをブラウン管から液晶に変える」という市場征服者的ビジョンは、規模の経済性と垂直統合の戦略発想を生み出し、亀山の巨大工場に帰結した。さらに亀山の成功が、後継の片山社長による堺工場への更なる巨大投資に結びつく連鎖である。投資戦略の失敗に対して、ガバナンスが問題という指摘もあるが、成功実績のあるカリスマ的リーダーが、「勝利の方程式」を振りかざせば、危うく見える巨大投資に対して、社内外から異論を唱えにくいのは当然とも言える。歴史に「もし」は禁物だが、仮に亀山工場が少しでも苦労していたら、シャープは身売りをしないですんだかもしれない。

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