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三菱自動車の燃費偽装に見る「無常な生物システム」としての企業と経営者

 自工を弁護するつもりはないが、仮説をみると、優秀ではあるが封建的な親から遺伝した意識や行動を抱え、多重な格差構造の中で出来の悪い子扱いされ続け、厳しい競争の中で弱さを露呈せずに生き抜くために、欺きも含めた自己防衛行動が形成されていったようにも見える。「子どもが抱える問題の原因は、親に半分ある」ということか。重工社内の弱小部門やB2C部門も自工と同じような課題を抱えているのかもしれない。

「隠匿・偽装などの欺き行動」の発達要因

 発達要因は、「部下たちが、どのようにして隠匿・偽装などの欺き行動を形成していくのか」という問いだ。これは、以下の要因だろう。

【1】OJT:自工の現場では社員たちが日々の業務の中で、欺き行動を上司から学んできたのであろう。特に上部から強いプレッシャーを掛けられ、所属組織が危機に陥る時に、組織ルーチン(組織構成員が自然にとる行動パターン)として、現場では大小問わず選択肢の一つとして定着しているのであろう。その場合重要なのは、「どうせ彼らには分からない」という確信だろう。

【2】一過性、しっぽ切り:仮に発覚しても、一部の幹部のみが処罰され、コンプライアンス教育がなされるだけで、ムラ組織、格差構造、情報の非対称性などの系統進化の構造は生き残ったのであろう。

「4つのなぜ」から今後の三菱自工再生を考える

 以上の「4つのなぜ」による仮説を元に、「今後三菱自工が隠匿・偽装などの欺き行動を防止するためにどうすればいいのか?」という問いに対する仮説を考えてみよう。 至近要因のうち、開発予算の少なさ、技術力不足、上層部からの過大な圧力などの開発マネジメントの問題に関しては、車種の絞り込みと開発予算の集中化、技術支援、開発戦略の見直しと目標の適正化などである程度は解決できよう。この面で、ルノー・日産の支援は役立つであろう。

 チェック機能不全に関しては、自工社内に多段階品質管理ゲートなどで、より厳しいチェックの仕組みの導入が必要となろう。ここでも日産の支援が役立つだろう。また監督官庁も、「性善説」から「性悪説」に立った審査認証管理への切り替えが不可欠であろう。

 やっかいなのは、やはり企業体質の問題だ。系統進化要因で見たように、この体質は「コンプライアンス教育」程度で治る代物ではなく、親譲りと格差の構造の中で永年組織内で進化してきた筋金入りのものだからである。生半可な手段では、必ず再発しよう。仮説としては、例えば以下の方法だろうか。

【1】重工は完全に手を引く:自ら同じ問題を抱える親には、子を救えない。似た体質を持つ三菱グループによる経営で自工が変わらなかったのは当然だ。特に、重工は今後自工の経営に一切関わるべきではない(関わりたくても、その余裕もないだろうが)。できれば、資本関係も完全に断ち切ったほうがよい。

【2】自工を解体し組み替える:少なくとも自工の悪しきDNAを断ち切るという点では、自工は完全に日産に吸収合併され、日産の一部として再出発するのが、一番であろう。現在の日産の方針は、「まずは自工自身で何とかせよ。それを支援する」ということらしいが、自工の問題構造の過小評価、自助能力の過大評価と思われる。
 また重工-自工の格差構造を、日産-自工に替えるだけ、という意味でリスクは残る。自工全体の吸収合併が難しい場合、例えば自工の開発部門だけを切り出して、日産の開発部門に吸収するのはどうか。残った自工は日産・三菱ブランドの軽自動車の販売・製造子会社化することになる。その場合、子会社の品質管理は「性悪説」に立って厳しく行なう必要があろう。

【3】顧客志向を徹底する:社内ではなく、顧客(=消費者)が大切、という教育を徹底する必要があろう。特に本社要員を現場に出し、顧客に直接お詫びをさせることから始め、常に「顧客第一」の基本哲学の刷り込みを改めて徹底する必要があろう。

 以上「4つのなぜ」を使って、企業と経営者の進化を考えてみたが、いかがだったろうか?次回も、また別のケースで試してみよう。

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三菱自動車の燃費偽装に見る「無常な生物システム」としての企業と経営者
今村 英明(いまむら・ひであき)
早稲田大学ビジネススクール(早稲田大学大学院経営管理研究科)客員教授。信州大学経営大学院教授。東京大学経済学士、東洋大学文学修士、スタンフォード大学MBA。三菱商事、ボストン・コンサルティング・グループ(シニア・パートナー、上海事務所長、日本法人代表取締役など)を経て、2010年から現職。

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