「残業制限」と会社はいうけれど、実際は仕事が増えるばかりです。部下たちは「忙しい、忙しい」と不満たらたらで、上司としても会社と部下との板挟みです。どうすれば不満を減らせるのか、頭を抱えるばかりです。
部下に「チャレンジ精神を持て」といって鼓舞する(ハッパをかける)のですが、やる気を見せるのは最初だけ。部下たちは「やります!」とはいうけれど、いつもその言葉は立ち消えになり、最後まできちんとやらないのです。
忙しいと泣き言をいう部下たち、何が問題なのか?
どうして部下たちは、忙しいと泣き言をいうのでしょうか。私が若い頃には、上司から言われなくても率先していろいろやったものです。忙しいからかえって仕事にやる気が起きたのです。
しかし、いまの部下たちは、チャレンジ精神を失っているように映ります。何が問題なのでしょうか?
1.できるだけたくさん主義をやめてこれだけ主義
ここで問題です。学校の宿題で、英語の教科書を予習するように先生からいわれました。あなたはどちらの先生の言い方にやる気が出ますか?
(1)明日までに、できるだけたくさん読んできてください
(2)明日までに、38ページから40ページまで読んできてください
さて、あなたは、(1)ですか、(2)ですか?
多くの人は、(2)を選びます。今まで1000人以上の人に聞いた結果は、(1)が1割、(2)が9割です。大半の人が、「38ページから40ページまで」という宿題にやる気が起きるのです。
(1)を「できるだけ主義(できるだけたくさん主義)」、(2)を「これだけ主義」といいます。(1)を選ぶ人は、めちゃくちゃやる気がある人か、ノルマが嫌いな人です。多くの人は、目標(ゴール)が明確な(2)を選びます。
限られた時間で成果をあげることが求められています。英語の予習だけでなく、数学や社会の予習も必要かもしれません。目標が明確な方が、多くの人にやる気が起きるのです。
限られた時間だからこそ優先順位を付けることが必要です。「これは投資対効果が高いのでやる」「あちらは投資対効果が低いのでやらない」とメリハリを付けるのです。
2.「やった方がいい」という人が口癖の人は要注意
「やった方がいい」という口癖の人はいませんか? 「やった方がいい」といわれたら、すぐに「やらなかったら何が困るのか?」と問いかけてみましょう。
やらなくても決定的に困らないことであれば、「もっと他に重要なやるべきことがあるのではないか?」を問いかけるのです。
かつては、「24時間働けます」というのが部下の美徳でした。そして上司も、やる気を見せる部課に高い評価を付けたのです。
しかし近年、会社としても残業制限をして、残業代を切り詰めて利益を捻出しようとします。売り上げが思うように伸びないのなら、コストを削減するしかないのです。
単にコストを下げただけでは、売り上げが減ります。そこで、限られた時間で投資対効果が高い仕事を増やしていく必要があります。反対に、投資対効果が低い仕事を減らしていくしかないのです。
限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)であると同時に、社員1人当たりが使える時間も有限です。上司は部下に対して、投資対効果が高い時間の使い方をリードすることが必要です。的外れの努力をいかに減らすかで投資対効果を高められます。
3.「これだけ主義」の選択と集中で成果を上げる
「これだけ主義」は重点化です。たくさんやった方がいい仕事の中から、投資対効果が高い仕事に絞り込みます。その代わりに、確実に達成しようと決意します。部下に対しても、何でもやれではなく、「これはやるけど、これはやらない」と決めるのです。
戦略の定石で有名なのが「選択と集中」です。勝ちを取りにいく領域を選択して、経営資源を集中してナンバーワンをめざします。選択とは、「やることを決める」、同時に「やらないことも決める」の2つの意味があります。選択はまさに「これだけ主義」です。
部下に対しては、やった方がいいではなく、「これはやるけど、これはやらない」という線引きをしましょう。ただし、「なぜこれはやる必要があるのか?」「なぜこれはやらないでいいのか?」の理由を明確に伝える必要があります。
上司の気まぐれで、これだけ主義を押しつけるのでは、部下たちは納得しません。「なぜそのような重点化をするのか?」という理由を納得させることが不可欠です。
4.ペイオフマトリックスで重点課題の優先順位を付けてみよう
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ではどのように、数多くある仕事から、重点化していけばいいのでしょうか。それには、「ペイオフマトリックス」が大きなヒントを与えてくれます。
発明王エジソンが創立した米国のGE(ゼネラルエレクトリック)では、仕事の優先順位を決めるために、ペイオフマトリックスを使って重点課題を決めています。
ペイオフマトリックスは、インプットの大小、アウトプットの大小で、4つの区分を作ります。インプット大は「遂行が困難」、インプット小は「遂行が容易」です。GEではすべての経営活動を数値(お金;時間も社員の人件費としてお金に換算)に置き換えることを全社員に義務づけています。インプット大(遂行が困難)はお金がかかる、インプット小(遂行が容易)はお金がわずかという意味です。
一方、アウトプット大は「収益大」、アウトプット小は「収益小」という意味です。インプットとアウトプットの比較をすれば、簡単に投資対効果の高い低いが区別できます。
会社や組織として、経営幹部や上司が重点化すべき課題は「ボーナスチャンス;BO(Bonus-Opportunity)」です。重点課題として積極的に推進すれば、投資対効果か高まり、経営効率が上がるでしょう。
部門として上司が重点化すべき課題は、「すぐできる;QW(Quick-Win)」です。すぐできて成果を短期間で刈り取れるのであれば、重点課題として取り組み価値があります。
やってはいけないのが、「時間のムダ;TW(Time-Waster)」です。時間と手間がかかるわりに成果につながらない仕事です。つまり、的外れの努力です。上司として、いかに「時間のムダ」の仕事をなくしていくかが問われているのです。
残りの「努力が必要;SE(Special-Effort)」はどう対処すればいいのでしょうか? 「努力が必要」をそのままのアイデアで進めるのは知恵が足りません。もっと知恵と創造力をフル活用して、「ボーナスチャンス(BO)」にできないか、創意工夫するのです。ボーナスチャンスにできないのであれば、次回以降に回し、いいアイデアがでればチャレンジします。
日本企業の場合、投資対効果を考えずに、たまたま思いついた目先の課題を手当たりしだいにやる習慣があるのではないでしょうか? それを言い訳とする言葉が、「やったほうがいい」です。努力の割に成果が見えない的外れの努力をいかに減らすかは上司の役割です。
人間は、成果が出る仕事には、やる気が起きます。そして成果が出たときには、達成感を味わえます。
部下にやる気がないとしたら、あなたが部下に「できるだけたくさん主義」を押しつけているか、「時間のムダ(TW)」の仕事を強制しているからではないでしょうか?
あなたの部下への指示のしかたを、ペイオフマトリックスで総点検してみませんか?