第10回 利害が相反する相手と正しく折り合うには?
■部門間の対立が生まれてしまった
長年苦労して開発を続けていた製品の市場化を決定する会議で、売れ行きへの懸念が明らかになりました。市況の変化を受け、発売目前になって、黄色信号が点滅し始めたのです。
そうなると、開発部門は「この製品は売れる」「発売するのが会社のため」と力説します。技術的な優位性などを根拠にして。逆に、販売部門は「こんなものは売れない」「中止するのが会社のため」と市場調査や販売店の声を手がかりに反論します。
心の中では、開発部門は「ここまでの努力を無にするのか!」、販売部門は「貧乏くじを引かされる身にもなってみろ!」と叫ぶ。互いのプライドをかけた戦いが、水面下で展開されます。
こんなとき、私たちはつい相手の意見を変えるべく、説得を試みようとします。残念ながら、それはあまりよい結果を生みません。大抵は、無駄な時間を浪費することになります。
なぜかと言えば、その意見は各々が大切にしている信念、価値、関心に基づいているからです。多くの場合、過去の経験や育ってきた環境の中で培われたもの。人生をやり直さない限り、簡単には変えられません。
私たちがやるべきは「折り合いをつける」ことです。
互いに大切にしているものは尊重した上で、今、この問題についてだけ、少しずつ双方とも融通を効かせ合う。分かりやすく言えば、「ホンネを理解した上で、タテマエで合意する」のが、対立の解消の望ましいやり方です。
■互いの言い分を理解し、共感する
そのためには、相手の言い分(メッセージ)を理解するのはもちろん、「相手が何にこだわっているのか?」、本当のワケ(ニーズ)を知ることが重要になってきます。主張の元になる欲求や願望を分かち合わないと、本当の意味で理解したとは言えません。
「どうして、そこまでこだわるのですか? 何かワケでもあるなら、教えてもらえませんか?」
ニーズというのは共感性があります。誰もがそういう状況になれば、同じようなことを思うからです。加えて、誇り、恐れ、悔しさ、恥、怒り、意地といった心理を共有してこそ、互いに「分かった」と言えます。そうすれば、かたくなな態度にも、変化の兆しが生まれてきます。
それでも腑(ふ)に落ちなければ、こだわりが生まれた契機となった経験を尋ねてみましょう。
「あなたが、その意見にこだわるのは、どんな出来事が元になっているのでしょうか?」
物語を聞けば、あたかも同じ経験をしているような気持ちになります。バーチャル体験を通じて、人を共感させる力があります。だからこそ、私たちは小説や映画に涙するのです。
■共通の関心事が必ずある
互いの信念を攻撃し合うと、それを守るために「1ミリも譲れない」となってしまいます。そうではなく、尊重しあうことで「少々融通を効かせてもいい」となります。旅人のマントを脱がす話で言えば、北風ではなく太陽が功を奏します。
ただし、そのためにはもう一つ重要なことがあります。「何のために融通を効かせるのか?」という目的や意味です。そこがハッキリしないと単なる妥協の産物になってしまいます。
言い換えると、両者が共通として持っている関心事(イシュー)。そこを分かち合ってこそ、意見が違うもの同士が一つのチームになれます。
冒頭の話なら、「発売するか否か?」で意見が割れていたとしても、「この事業を成功させたい」「顧客に感動を与えたい」「会社を繁栄させたい」というのは変わらないはず。少し引いて俯瞰(ふかん)的に見れば、目的、問題、ビジョン、価値といった、大きな一致点が必ず見つかります。
逆に言えば、そういうものを共有しているからこそ、今ここで話し合いをしているわけです。何もなければ、互いに勝手にやればよい話。そもそも議論する必要はありません。
ところが、論争の当事者たちは、互いの違いにばかり目がいき、共通点が見えなくなっています。誰かが指摘をして、気づかせてあげなければいけません。
「結局、お二人は、○○の点では同じことをおっしゃっているのではありませんか?」
■折り合える選択肢を柔軟に考える
ここまでできれば、後は難しくありません。互いの信念に融通を効かせながら、どうやったら共通の問題をよいカタチで解決できるか、知恵を出し合っていくことになります。
時々勘違いする人がいるのですが、合意形成とは、相手を力づくで説得することでも、互いに譲り合って妥協点を見つけることでもありません。
共通の目的や問題に対して、みんなが折り合うような新たな解決策をつくりだすことです。そこを間違えるから、まとまる話もまとまらないのです。
できれば、全員の満足度を最大にする案をつくりだしたいところ。そのためには、ニーズやイシューに立ち戻り、柔軟に選択肢を出さなければいけません。
「要は△△が達成できればいいんですよね。○○以外の方法を考えてみませんか?」
だからといって、全員が100%満足する答えはありえません。そんなことを考えていると、時間がいくらあっても足りません。
全員が「少なくとも反対はしない」といった、ソコソコのレベルで十分。ホンネを分かり合ったのですから、「この辺で折り合いをつけないと前に進めないから」とタテマエで合意するのです。
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1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
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