第12回(最終回) 日本の会議が抱える3つの問題点
■ネットを賑わせた大論争
先日、「ノンアルコールビール(アルコール分0.00%のもの、以下ノンアル)を日中に職場で飲んでもいいか?」という話題がネットで盛り上がりました。多くの方は、「そんなの、ダメに決まっているじゃないか」と考えると思います。
ところが、「なぜダメなの?」と問われると、合理的に説明できません。「不謹慎である」「誤解を招く」「場をわきまえるべき」といった理由が大半を占めます。
モラル、社会通念、世間体、常識など、言い方はいろいろあっても、要は「共同体の中で一般的ではないから」です。「多数の人が認めていない」というのが反対の論拠になっているわけです。
おそらく、背景にあるのが日本の企業文化だと思います。昼間は、滅私奉公と同調圧力による過度のストレスがかかる(オン)。夜にアルコールの力を借りたバカ話でそれを一気に開放する(オフ)。オンオフを巧妙に使い分けながら、馬車馬のように働くのが企業戦士の正しい姿でした。
したがって、アルコールが入っていようがなかろうが関係ありません。オフの象徴をオンに持ち込むこと事態が「けしからん!」となります。事の正否以前に、常識の欠けるオキテ破りとして糾弾されるわけです。飲みたい人は、覚悟を持ってやってくださいね。
■気楽に真面目に話し合う場が求められる
ところが、この仕組みがうまく機能しなくなってきたのが、昨今の会社の状況です。原因は、個人主義の台頭、女性活用の進展、非正規雇用の増加などによる、「人材の多様化」にあります。
オンにストレスをかけるとメンタルをやられて出社しなくなる。オフに無理に連れだそうとするとパワハラと言われる。このやり方しか知らないオジサンたちはなすすべもなく、「何を考えているのか分からない」「コミュニケーションが取れない」と嘆くばかりです。
今、多くの組織で「気楽に真面目に話し合う場」が求められています。気持ちはオフだが中身はオン。それこそが、これからの職場内コミュニケーションの鍵を握っています。個人的には、その促進役としてのノンアルに興味深いものを感じています。
以前、私が所属する日本ファシリテーション協会で実験したことがあります。「人と状況次第では」「お茶よりもノンアルのほうが、話し合いが盛り上がる」という結果を得ています。
それを活かせば、アイデア出しの盛り上げに、職場の悩みを語り合うのに、対話型の研修による学びの促進剤として、長時間の会議の気分転換に、商談でお客様の心を開かせるのに、といった用途が考えられます。ひょっとすると、ノンアルは企業文化を刷新する起爆剤になるかもしれません。
■日本の会議が抱える3つの問題点
本連載では、ムダな会議をなくすための、参加者としての働きかけをたくさん紹介してきました。会議は組織の縮図であり、会議を変えることは組織を変える第一歩となります。それは、ノンアルの話と同様、組織が持っている常識(当たり前)を変えることに他なりません。
私たちが直面する問題は何度も繰り返し、パターン化しがちです。それは、問題の構造に問題があるからです。典型的なのが、「会して議せず、議して決せず、決して行わず、行わずして責を取らず」という言葉です。問題が悪循環に陥ってしまい、構造を打ち破らない限り解決しません。
では、何がその構造をつくりだしているのでしょうか。
大もとになっているのが、「ねばならない」「違いない」「べきだ」「当然だ」という固定観念(メンタルモデル)です。会議で言えば、大きく3つあります(参考:岡本浩二『会議を制する心理学』)。
1つ目は、「長いものには巻かれろ」です。場の空気を読み、多数派に同調することが、共同体の中でうまくやっていく秘訣です。これを打ち破らない限り、会議の多くの問題は解決しません。
2つ目は、「何が正しいか?」ではなく、「誰が言ったか?」で物事を判断する「属人思考」です。内容に関係なく、信頼を集めている人の意見が通り、そうでない人は門前払いになります。
3つ目は、役職、年齢、知識経験ともに一番上の人が進行役(議長)となっていることです。長幼の序を重んじる日本人は唯唯諾諾と従ってしまいます。まさに議長の思うツボです。
■正面突破を避けてゲリラ戦で闘おう!
こんなトホホな状況を、一体どうやって変えていけばよいでしょうか。
これらは日本の文化であり、必ずしも悪いものではありません。問題は、いついかなる場合も100%そうあるべき、と考えることです。融通が効かないことが問題なのです。
たとえば、いつもは進行役に従うとしても、時にはそうでない場面があって悪いはずはありません。試しに、やってみれば分かります。20回に1回くらいは「その進め方でいいんでしょうかね?」と疑問を呈してみるとか。その程度なら大目玉をくらうこともないはずです。
そうやって、固定観念を緩める体験を積み重ねながら、企業風土に少しずつ風穴を空けていく。いわば、正面突破を避けて、ゲリラ戦を挑もうという作戦です。
本稿で紹介したフレーズは、まさにそのためのものです。これくらいなら、どんな人でもやれないはずはありません。ほんの少しの勇気と覚悟が会議を変えるキッカケになります。
もちろん、提案を却下されたり、無視されたりする時もあるでしょう。だからといって、落ち込んだり、諦めたりする必要もありません。それも固定観念がなせる業です。
「死ぬわけではない」「たまにはうまくいくさ」と考え、「そうですか」「では、次の機会に」と受け流せばよい話。そうやって、諦めず、したたかに、粘り強く、働きかけを続けていきましょう。
※「ダメ会議撲滅で変える働き方」は今回で終了です。来週からは「働き方改革で使えるフレームワーク」が始まります。お楽しみに!
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1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
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