第3回 「だから」~オチない話は意味がない (この連載の一覧)
これを飲めばロジカルになる?
いつも新商品が出るたびに感心させられるのが、ネーミングの秀逸さです。特に食料・飲料品には「よく考えたよな……」と思わせるものが多数あります。
中でも私のお気に入りの商品が一つあります。これを飲み続ければ「ロジカルシンキングの力が高まるかも?」と思わせるネーミングです。論理力が不足していると思われる方にお勧めです。どこの会社の何という商品だか分かりますか。
ずばり、サントリーの機能性飲料「DAKARA」です。
同社のホームページでの説明によると、この商品は「14種類の素材と純水だけでできています」「素材由来のミネラルやアミノ酸、クエン酸などを含んだ体にやさしい水分補給飲料」「すっきりとして飲み飽きない味わいに仕上げている」そうです。
だから(DAKARA)、「お子さまから大人の方まで、毎日の水分補給飲料として幅広くお楽しみいただけます」と論理がつながります。単なる清涼飲料ではなく、水分補給という身体に不可欠な機能を備えた商品であることを訴えたかったのでしょう。「だから」という言葉で、飲む理由があることを説明しているわけです(「カラダ」とも引っかけているそうです)。
集めた根拠から適切な結論を導く
「だから」は、根拠と結論をつなぐのに欠かせない言葉です。
前回、論理思考では、起こっていることや考えていることの訳を明らかにすることが大切だ、という話をしました。結論 → 根拠といった流れです。
一方、物事を判断するときは、根拠 → 結論の順番で考えます。事実や原理を集めて、そこから結論を導き出します。その時に欠かせないのが「だから」(ということは、したがって)です。
[OK] 黒い雲がわきあがってきた(根拠)。だから、雨が降るかもしれない(結論)
「だから」はいくらでもつなげられます。AならB、BならC、CならD……といったように。前回述べた「なぜを繰り返す」の逆バージョンです。
[OK] 黒い雲が出てきた。だから、雨が降るかもしれない。ということは、傘を持っていかなければいけない。したがって、置き忘れないようにしよう。だから……
ただし、道筋の途中に怪しいものが混じってしまうと、どんどん妙な方向に論理が進んでしまいます。いわゆる「風が吹けば桶(おけ)屋がもうかる」の論法です。一つひとつが本当に成り立つのか、いつでも成り立つのかをチェックすることが大切です。
本当にそうか? 他にないのか?
根拠は必ずしも一つとは限らず、時にはいくつかの事実や情報から結論を導きます。
[OK] 人事課では「報・連・相」が少ない。他の人の仕事に無関心だ。今月も一人会社を辞めた。だから、上司のマネジメントに問題があるんだよ。
根拠が3つもあるともっともらしく聞こえます。ただし、この論法を使うときに気をつけないといけないポイントが2つあります。
1つは、「これだけの根拠でそれが言えるか?」です。この例でいえば、上司と部下の関係についても調べたほうが確実かもしれません。なるべくヌケモレがないよう根拠を見つけだしましょう。
もう1つは、「他のもっと適切な結論を導くことができないか?」です。仮にそれが言えたとしても、もっと優れた結論があるならそちらを重要視すべきです。この例にしても、マネジメントのせいではなく、仕事量が多すぎることが諸悪の根源かもしれません。
この2つは、複数の事実から共通点(法則性)を導くときも同じです。
[NG] 山田部長はA大学の出身だ。田中部長もA大学。佐藤部長も。したがって、部長になるにはA大学を出なければいけない。
はたして、たった3人だけでそれが言えるでしょうか。集めた事実に偏りはありませんか。3人に別の共通点はないのでしょうか。たとえば、3人とも学生時代に運動部の主将だったとか。そちらがA大学よりも重要な要因ということは考えられませんかね。
このように、根拠から導き出す結論は、よく考えないと見誤ってしまいます。「本当にそうか?」「他にないのか?」と自問自答することが大切です。
因果の見極めの落とし穴
簡単なクイズをやって、ここまでの話の理解度を確かめてみましょう。以下の発言は筋が通っているようで通っていません。どこがおかしいでしょうか?
[NG] 業績が高い会社に見られる共通点に、社員がイキイキと働いていることにある。だから、もっと社員を活性化させれば、会社の業績をアップするに違いない。
お分かりになりましたか。1つは、社員活性化(原因) → 業績向上(結果)なのか業績向上(原因) → 社員活性化(結果)なのか、この話だけでは分からないことです。
[OK] 業績が高い。だから、社員が活性化している。あるいは、社員が活性化している。だから、業績が高い。一体、どちらなのでしょうか?
もう一つは、隠れた他の原因があるかもしれないことです。業績もイキイキもその結果であると。
[OK] 社長が優れたリーダーシップを発揮している。だから、業績も高く、社員がイキイキ働いているという可能性はありませんか?
いずれの場合も、社員を活性化させても、業績が上がるとは限らなくなります。
このように、2つの事象につながりがあったとしても、何が原因で何が結果かは、よく考えないと間違ってしまいます。慎重に因果を見極めるようにしましょう。
結論と根拠をセットにして議論する
時々、「あいつは許せない」「無理に決まっている」といった言いっぱなしの意見を吐く人がいます。そんな人には「なぜ?」(Why?)で根拠を求めるようにします。
[NG] そんなのありえないよ!
[OK] なぜ? (どうして? 根拠は? その訳は? 理由は何でしょうか?)
逆に、「○○となっています」「○○という話もあります」と考える材料だけを提示して、他人事みたいに解説する評論家タイプがいます。「だから?」(So What?)を使って結論を明らかにします。
[NG] 付き合いが悪い若者が増えてきていますね。
[OK] だから? (なので? で? とおっしゃいますと? というと?)
こうやって、根拠と主張をワンセットにしてこそロジカルな議論になります。両者を行ったり来たりすれば、本当に考えていることが見えてきます。
[NG] そんなこと、できるはずがないだろ。
[OK] なぜ、そう考えるのですか?
[NG] やり直す時間はないし、従業員も嫌がるだろうし、私だって……。
[OK] だから?
[OK] う~ん。つまり、やり直す気にならないんだよ。
「なぜ」と「だから」の2つをそろえればロジックができあがります。そのことを分かっていただけたでしょうか。だから、この連載は続けて読む価値があるのです(強引な結論でした!)。
「最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は4月28日の予定です。
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日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。