第28回(最終回) 「本当にそうか」 あと一歩だけ前に進もう!
ビジネスの神は細部に宿る?
いろいろな会社の組織活性化をお手伝いしていると、いやが応でも相違点が見えてきます。
どこの会社もやっていることにさほどの違いはありません。使っている経営手法やマネジメントツールは似たりよったり、取り立てて目新しいものはありません。
それでも組織のパフォーマンスに大きな違いがあります。それは、2つのものが大きく違うからです。一体、何だと思われますか?
一つは「スピード」です。環境変化が激しい中、早いことはそれだけで価値となります。稟議(りんぎ)を回している暇があったら、早くやって素早くフィードバックをかける。「学習するスピード」が企業活動の生命線になってきています。
もう一つは「徹底度合い」です。同じことをやるのにしても、どれだけ徹底的にやるか、どれだけしつこくやるか、どれだけこだわりをもってやるか……。一人ひとりの粘り方の差が、企業全体ではとても大きな差となって現れます。
典型的なのがトヨタという会社です。世界中がトヨタ方式を学んでも、トヨタと同様の利益率を達成するところはどこもありません。それは、経営理念に基づき、カイゼンを徹底的にやり続ける企業文化がないと、トヨタ方式が生きこないからです。まさに「神は細部に宿る」です。
あともう1回だけあがいてみる
ロジカルシンキングもまったく同じではないでしょうか。
「こうやれば誰もがうなるロジックができる」という魔法は、どこを探してもありません。「こうやればたちどころにロジカルシンキングが身につく」というお手軽な方法もありません。私たちにできることは、あともう1回“あがいて”みることだけです。
「これでよし」と思わずに、「本当にそうなのか?」「どこか間違っているかもしれない?」ともう一度ロジックを疑ってみる。「これがベストだ」と思わず、「他にもっとよい手があるかもしれない」「さらによくすることはできるはずだ」と新たな筋道をもう一回考えてみる。
そうやって、どれだけこだわり、どれだけ粘るか。出口が見えない中でもがく回数が思考力を鍛えてくれます。
NHKの人気番組「プロフェッショナル」に登場する各界の達人たちも皆同じです。特別の回を除き、登場するのは掃除婦、現場監督、引っ越し屋、調理人といった市井の人々です。
なぜ彼(彼女)らが業界の第一人者にまで上り詰めたかといえば、現状に決して満足せず、常に高みを目指して、誰よりも試行錯誤を繰り返すからです。特別の才があるとすれば、あくなきこだわりと徹底的なあがきです。プロフェッショナルとはそういう人なのです。
トライする回数を増やすしかない
ですので、考える暇があったら、とにかくワンフレーズを使ってみてください。気に入ったものを集中的に。
うまくいかなかくても、諦めず、あがいてみましょう。あと1回だけ、もう1回だけと。うまくいったら、それで満足せず、もっとうまくいくやり方はないかを考え、もう一度トライしてみましょう。あがく回数を増やすこと以外に上達の道はありません。
いくつかのフレーズがものにできたら、自在に組み合わせてみるのが次のステップです。
もうお分かりのように、組み合わせ方にはパターンがあります。いくつか例を載せておきますので、思考錯誤の中で自分の得意パターンを見つけてみてください。
【OK】 要するに、Aこそが正解だ。なぜなら、○○だからである。他にも、BやCという答えもある。中でも効果が高いのがAだ。だから、すぐにでもAに取りかかるべきである。
【OK】 結論から言えば、Aが正解だろう。そもそも、我々に大切なのは○○であり、△△も重要だ。いずれにせよ、Aが最善の選択となる。あくまでも、現段階の見通しだが。
【OK】 仮にAでなければBとなる。たしかにそうすればリスクは抑えられる。とはいえ、できれば最大限の効果を狙いたいところ。あえて、Aという選択が正解なのだ。
繰り返し問い掛ければ思考力が育つ
そうやって、ある程度ロジックが組み立てられるようになったら、日常のコミュニケーションで活用していきましょう。自然と口をついてでるようになれば、かなりの使い手といえます。
一番活用してほしいのが会議です。すでに本稿で何度も使い方を紹介しました。あわせてもう一つお勧めしたいのが、部下や後輩の指導です。
たとえば、事あるたびに「なぜ?」を相手にぶつけると、「根拠をもって考える」という姿勢が育まれていきます。「要するに?」を問えば、「ポイントをまとめて話す」というスキルが育ちます。そんなふうに、一つのフレーズを繰り返し問いかければ、普段の会話を通じて育成できます。
ここでも、ワンフレーズを組み合わせるとさら強力です。知らず知らずのうちに、自ら考え行動する人が育つこと請け合いです。ロジカルな組織風土をつくることにもつながります。
【NG】 先輩、この間の話、○○することにしたいんですが、よろしいですか?
【OK】 たしかにそれもあるよね。他にどんなアイデアを考えた。できれば3つくらいあげてよ。
【NG】 ○○の他といえば、△△とか、□□とかですか?
【OK】 要するにみんなAのためだよね。仮にBだとしたら、たとえば何があると思う?
【NG】 そうですね。あえて言えば◇◇になるのかな……。
【OK】 だよね。いずれにせよもう少し考えてよ。そもそもまだ時間はあるしさ。
本コラムが書籍になりました!
ということで、ご好評いただいた「最強のロジカルシンキング」は今回でおしまいです。長い間、ご愛読いただき、本当にありがとうございました。
最後に耳よりなお知らせを一つ。ご好評いただいた本稿が、さらにパワーアップして、書籍として刊行されました。
ロジカルシンキングは難しくありません。使うのはたった一言。簡単なフレーズを意識して使うことで、誰でも今日からロジカルになれます。
本稿で紹介した数々のフレーズを、論理思考の基本となるフレームワークで整理し、「基本」「応用」「実践」の3ステップに分けて使い方を解説した入門書です。
このコラムをいつも楽しみにしていただいていた方から、「今回たまたま読んだら最終回だった(笑)」という方まで、誰もが楽しめる内容になっています。ぜひ一度、お手にとってご覧ください。
では、また機会があれば、どこかでお会いしましょう。その時まで!
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堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。