ホウレンソウ(報告・連絡・相談)で上司・部下との信頼関係を構築する
パソコンでの個人ワークが増える今日、上司と部下のコミュニケーションは希薄化しています。上司と部下の信頼関係はホウレンソウ(報告・連絡・相談)から始まります。部下がもっと事前に報告していたら、トラブルを未然に回避できたかもしれません。火事と同じで、まず火事を起こさないための火の用心が必要です。万が一、火事になったら初期消火が大切。トラブルの未然防止には、ホウレンソウを十分補給することが肝要です。
1.コミュニケーション不足による弊害
コミュニケーションの希薄化によって情報の伝達不足が起きると、多くの問題を引き起こします。コミュニケーション不足がどのような問題を引き起こすのかを考えてみましょう。
1つめは、業務効率を低下させる問題です。担当の当事者は一生懸命がんばっているつもりでも、上司から見れば非効率なやり方をしていることがあります。上司が部下の仕事の状況を把握できていれば、的確なアドバイスで業務効率を高めることができます。
近年、過重労働の問題が世間を騒がせています。上司としても、部下の業務内容を大まかにでも把握しておくことが不可欠です。また部下の残業を減らすために、部下の業務効率を高めるアドバイスをすることも必要です。
2つめは、トラブルが起きた時に、問題解決の対応が遅れ気味になるという問題です。当事者しか知らない情報が多すぎると、当事者以外が支援したくても、状況把握に時間がかかってしまいます。
トラブルの初期対応が遅れると、損失が必要以上に広がります。特に顧客からのクレーム発生時には、早期対応・早期解決が不可欠です。クレーム対応の善しあしで顧客の好感度は大きく左右します。対応がすばらしければ、顧客の信頼が回復できるのです。
日常から上司と部下の間に密なコミュニケーションがあれば、事前に状況が把握できるので、アドバイスできてトラブル回避できたかもしれません。また、即座に対応できて、早期解決につながったかもしれません。
2.ホウレンソウ(報告・連絡・相談)ができる環境整備が不可欠
「ホウレンソウ」はコミュニケーションの基本です。業務において、これが日常からできていれば、上司にとって予想外のトラブルを未然に防止できるでしょう。
(1)「報告」でコミュニケーションを心がけよう
部下が知っている悪い情報こそ最も重要な情報です。「悪い情報はすばやく報告。いい情報はタイミングを見て報告」という考え方があります。私たちはいい情報は伝えるけど、悪い情報は隠したいという心理が働きます。しかし、悪い情報こそ早く把握して早期対応が必要なのです。
しかし、多くの人は、悪い情報を上司に報告するのをためらいます。たとえば、計画より遅れている現実を報告しないという心理に駆り立てられます。隠し事はよくないと思うものの、「悪い報告をすると怒られる」という経験が邪魔をするのです。
上司としては、悪い情報に過敏に反応して、「どうしてそうなったのか」「何でちゃんとやらないのか」と叱咤(しった)するでしょう。その繰り返しにより、部下たちは上司に悪い報告をしなくなるのです。
営業、生産、工事などの現場担当者は、悪い状況であることを十分知っていることがあります。しかし上司に報告すると怒られるので、問題が表面化するまで知らん顔をしようと考えます。「そのうち何とかなるはず。もし最悪の状況になったら、仕方ないから暴露しよう」と決め込むのです。
ふたを開けて上司がびっくり。納期直前に「間に合いません!」と開き直られたら困ります。だから、悪い情報はいち早く上司に報告する企業風土が大切です。
そうした環境を整えるためには、「悪い情報はすばやく報告。怒らないから正直に報告してくれ」と繰り返すのです。問題の発生を正確に把握することが第一です。上司としては、「発生してしまったこと自体は仕方がない」という割り切りが肝要です。
P・F・ドラッカー博士は、マネジメント論の中で「人を憎まずしくみを正せ」と教えています。悪い情報を報告した部下を叱ると、怒られたことがトラウマとなって二度と報告しなくなります。悪い状況が起きたことを部下などの人のせいにするのではなく、マネジメントの仕組みに問題がないかに注意を向けるべきです。そして、問題の再発防止の仕組みをどうするかを考えます。
「悪い情報は早く伝える、隠し事はしない」ことをルールにしましょう。事実を正確に報告してもらいます。悪い情報を聞いたときは怒らずに、部下とすぐに解決策を話し合うのです。
(2)「連絡」がモレないように注意しよう
連絡不足も、コミュニケーションを妨害します。気まずい思いをしないよう連絡モレに注意しましょう。連絡自体を忘れないためには、メモにして文書化することが不可欠です。付箋紙に書いて渡す場合もありますが、忘れないうちにメールで連絡しておくのも一案です。
ただし、5W2Hが欠落していては正しい連絡になりません。5Wとは、Why(理由)、What(目的)、When(時間)、Who(人)、Where(場所)です。2Hとは、How to(方法)、How much(金額)です。
組織活動やチーム活動では、連絡によるコミュニケーションが極めて重要です。情報を共有化することで相互理解が可能になります。なお、連絡方法はお互いに負荷が軽減できる方法を決めるといいでしょう。
(3)「相談」することで仲間に巻き込める
相談してくる部下はかわいいものです。複数の部下が同じ能力で、同じ成果をあげた場合、相談してくる部下に、多くの上司は高い評価を付けるでしょう。上司や関係者に相談することで、仲間に引き込めるのです。
「上司に相談しなくても完璧な案ができる」と考える部下も多いかもしれません。しかし、相談しない部下は、完成段階で上司に報告したときに、多くの手直しを求められることがあります。方針レベルの手直しだと、時には全部やり直しになりかねません。
上司の満足度は、「その案件にどれくらい関わったか」で決まります。上司は、「私がアドバイスしたから、いい報告書になったでしょう」と言いたいのです。上司が口を出さないで完成形を持って行くと、完成度が高くても、上司の自己満足のために、部下に修正を求めることが多いのも現実です。
部下としての対策の1つ目は、方針レベルで相談してから、詳細な報告書を作成することです。2つ目は、95%程度の完成度で相談し、上司に一手間分の修正をさせて、上司の満足度を上げるのです。
相談することで相手が親身になって考えてくれます。また相談することで、的はずれの努力を減らせます。上司の意見を取り入れれば、部下は上司から評価されやすいのです。
上司としての対策の1つ目は、方針レベルでこだわりがあるなら、早めに部下の相談に乗っておくことです。2つ目は、完成度が高い報告書であれば、どうでもいい部分の修正を強要しないことです。完璧主義でていねいな仕事をするまじめな 部下ほど、どうでもいい部分の修正の強要にやる気をなくします。
部下には、手ぶらで相談に来るのではなく、たたき台を準備してから相談に来るように指示します。「どうしましょうか?」ではなく、自分の考えや代替案を持って相談させるのです。
「ホウレンソウ」不足に要注意です。ホウレンソウは、組織のコミュニケーションを円滑にする必須ビタミンを含んでいるのです。