第7回 会議でマジカルバナナが始まった、どうやって止める?
■連想ゲームになっていないか?
皆さんは「マジカルバナナ」というゲームをご存じでしょうか。「マジカル○○」から始め、○○といったら△△」「△△といったら□□」と前のワードから関連するワードを、一人ずつ順番にリズムに乗って答えていく遊びです。
1990年代に人気を博した「マジカル頭脳パワー!!」というテレビ番組で生まれたものです。今でもキャンプの余興やコンパなどで使われることがあります。早い話、ビートを効かせた連想ゲームです。
最近このゲームを企業研修で使うところが現れ出しました。型通りの発想をしていたのでは、イノベーションなんて生まれません。ひらめきをつなげることで互いが持つ枠を打ち破れます。柔軟な発想力と思考の俊発力、引いてはチームの創発力を鍛えるのにこのゲームを使うのです
ただし、これはあくまでも研修での話。会議でマジカルバナナをやられては、たまったものではありません。話があちこちに飛んでしまい、収拾がつかなくなります。
ところが、会議で本題を議論している時間は案外少ないもの。「関連はあるんだけど、必ずしも必要がない」という話がかなりの割合を占めています。
時には、思いっきり脱線してしまい、そこで妙に盛り上がったりします。あげくの果てに「ところで、今日は何を話すんだったっけ?」となったりします。
皆さんの会議は、そんな“マジカルバナナ状態”になっていないでしょうか。
■自己アピール合戦が繰り広げられる
そうなる原因は明らかです。多くの人は、頭の中で何かを思いつくと、人に話したくなります。議論に貢献するかどうかを吟味することなく、とにかく自分が持っている情報やアイデアを披露したくなるのです。みんなが聞いてくれることが分かっているから。
つまり、会議とは議論の場であると同時に、一人ひとりにとっては、絶好の自己表現の場でもあるのです。普段味わえない、承認欲求を満たす時間となっています。
たとえば、「会議が多くて仕事にならないよ」とこぼしながら、ウキウキと部屋を出る人はいませんか。一つひとつの意見に、「それはね……」と知ったかぶりのコメントをつける人はいないでしょうか。耳にタコができるほど聞かされた十八番の武勇伝を語る人もいます。
議論よりも、「私はここにいる!」ということをアピールしたい寂しい人たちが、会議で輝こうとするのです。高齢化が進めば進むほど、その傾向は加速されます。
そんなことをやっていたら、時間がいくらあっても足りません。飲み屋でやるべきです。脱線気味の意見が出たら、さりげなく論点に戻すように促しましょう。
「すみません。それは、何についてのお話なのでしょうか?」
■寄り道をする価値があるのか?
そうやって論点をキープしようとしても、違う話を持ち込もうとする人が必ず現れます。中には、「論点から少し外れるんだが……」「ちょっとズレるかもしれないが、関連する話を一ついいかな?」と断りを入れ、ズレを承知で脇道に入る確信犯もいます。
脱線が必ずしも100%悪いわけではありません。そこから思わぬ発想が生まれる時もあります。言いたいことが言えないと、欲求不満が募ります。
とはいえ、一人に甘い顔をすると、次々と堰(せき)を切ったように出てこないとも限りません。マジカルバナナにならないよう、貴重な資源(時間や工数)を投入してまで、話をする必要があるかどうか、思い切って尋ねてみましょう。
「時間が押しているのですが、ここでどうしても話さないといけない内容なのでしょうか?」
そう言われると、多くの人は引き下がるしかありません。大抵は、過去に話したことがある話であり、特段目新しい情報があるわけではありません。自分の引き出しの中から、この場に合うネタを探して、吐き出している(ダウンロードする)だけ。言っても言わなくても大差ないのです。
ただし、このツッコミは話が始まる前にやらないと、効果がありません。第5回に述べた、早目に切る技が求められます。
■勇気を出して今の論点を尋ねてみる
そんな働きかけをしても、気づいたら脱線で盛り上がってしまったり、みんなてんでバラバラの話をしている、という状態になることも。多勢に無勢となり、一人では太刀打ちできないこともあります。
全員が同じ論点で話し合わないと議論になりません。話し合いでもっとも大切にするべき原則の一つなのに、これほど守るのが難しいものもありません。
みんなが論点を見失ってしまったら、今の論点を尋ねるのが一番良い方法です。
「私は頭が悪いもので、今何を話し合っているか、教えてもらえませんか?」
それだけで、「ゴメンゴメン、ちょっと脱線していたな」「え~と、何の話をしていたんだっけ?」と、本来話すべき論点からズレていたことに気づくはずです。
その上で、何を話し合うべきかを話し合うようにしましょう。第2回で述べた、「プロセスを決めてからコンテンツに入る」という原則に思い出してください。
「あと30分、これから何を話し合っていきましょうか?」
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日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)など多数。最新刊は『会議を変えるワンフレーズ』(朝日新聞出版=写真)。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。