column 終身雇用の時代は終わり
いま、日本のビジネスパーソンに
必要なものは「学び」

早稲田大学ビジネススクール 入山章栄教授

日本のビジネスパーソンの給料はなかなか上がりません。経済協力開発機構(OECD)によると、日本の平均年収は加盟国平均より低い35カ国中22位にとどまります。私たちが希望するキャリアを歩み、結果としてより高い待遇を得るにはどうすればよいのでしょうか。

変化の激しい時代に欠かせない視野・視座・視点を測定するのが日経TESTです。日経TESTは2022年11月の全国一斉試験開催に向けて、キャンペーンを実施します。その特別企画として、「両利きの経営」の重要性を訴える早稲田大学ビジネススクール(WBS)の入山章栄教授に、正解のない時代の「学び」について聞きました。

給料を上げたかったら学ぼう

企業から求められる
生産性の高い人材に

日本のビジネスパーソンの実質賃金は
約30年間、ほとんど上がっていません。

最大の理由は日本のビジネスパーソンが転職しないからです。多くの人たちは終身雇用に甘えて能動的に勉強してきませんでした。勉強しなければ生産性が上がりません。付加価値の高いビジネスも生み出せません。企業は人の集まりなので、従業員1人1人の生産性が低ければ、企業の生産性も低迷します。生産性が上がらなければ当然、給料も上がりません。
転職するのが当たり前になれば、人材の争奪戦が起きます。企業が生産性の高い人材を採るには、給料をはじめとする待遇を魅力的なものにしなければなりません。生産性を上げることが給料の高さにつながることがわかれば、人は自ずと勉強します。

転職しないのは怖いから

優秀な人材はより良い
条件の企業へと
移動を始めている

人が動けば、異質なもの同士が
結合するようになりますね。

日本企業に足りないのはイノベーションだと言われ続けています。イノベーションとは、知と知の組み合わせです。新結合とも言われます。転職が盛んになれば、様々な知見を持った人が結びつくようになります。

それでも転職に及び腰の人は
多いと思います。

それは怖いからでしょう。同じ会社で長く働き続けてきた人の多くは、今の会社以外の場所で自分の能力が通用するのか不安に感じています。それは終身雇用という『ぬるま湯』の中で勉強してこなかったからです。給料が上がらないのは、そのツケを払わされているとも言えます。能力を上げている人や能力の高い人は皆、勉強を続けています。そうした人たちは今の会社を辞めて、今よりもより良い条件の下で働けるのです。

中高年とは異なり、若い人たちの中には
もっと勉強したいと考えている人が
多いようですね。

彼らは終身雇用が続くとは思っていません。生き残っていくため会社に頼ろうとは考えていません。手に職を付けなければいけないと思っているのです。日本企業はそうした機会を彼らに与えられるかが問われています。なぜなら優秀な人ほど、学びの機会がない会社を見捨てて外に出て行ってしまうからです。
日本の大企業は人材を引き抜かれることへの危機感を持たなければなりません。海外に比べると資金調達環境が比較的よいこともあり、日本のスタートアップ企業の賃金はかなり上がっています。大企業よりも高い賃金を提示しているスタートアップも珍しくなくなりました。能動的に学べる人、生産性の高い人、将来性のある若い人。こうした人たちが大企業を離れてスタートアップに移り始めています。

インタビュー画像

正解のない時代に求められるのは
「知の探索」

常に新たな事業を
生み出さなければ、
生き残れない

日本企業は既存事業の改善・改良が得意です。
両利きの経営でいう「知の深化」に
たけているように思います。
一方、新しいビジネスを生み出すのが
苦手のようです。
それは「知の探索」が足りないから
でしょうか。

今ほど、問いを見つける人材が重要になっている時代はありません。これからもそうでしょう。それは世の中の変化が激しくなっているからです。しかも不確実性も高まっています。正解がない時代で大事なのは、様々な情報を収集し、それらを結び付けて何をこれからすべきかを決断する力です。このときに欠かせないのが『知の探索』です。
既存事業の改善・改良がはまったのは1970~80年代までです。このときは欧米企業という『正解』がありました。日本企業がやるべきことは正解にたどり着く方法を考えることでした。いかに安く、効率的に、歩留まりを高くするか。日本の学校教育もそれに沿った内容でした。ただ、そうした時代からもう30年以上たっているのです。
知の深化が不要になったというわけではありません。既存事業を改善し続けなければ企業は存続できないからです。ただ、知の深化だけでは新しい事業は生み出せません。生産性も上がらないので給料も上がりません。

かつて「企業の寿命は30年」と
言われていましたが、
今はもっと短くなっていますね。

経営学の世界では、持続的競争優位をできるだけ長くとれるようにすることを重視する考え方が主流でした。しかし、今は違います。ある事業が『旬』である期間が短くなっているのです。競争優位のある事業はすぐにまねされ、新規参入との競争にさらされます。新しい打ち手を鎖のようにつなげていくように、常に変化しなければなりません。人材のリニューアルも必要になります。

発想力は移動距離に比例する

異質な「知」と「知」を
結びつけ、
イノベーションを
起こすために

インターネットには多くの
学びのコンテンツがあり、
手軽に知識を得られるようになりました。

今の若い人はわからないことがあれば、手元にあるスマートフォンを使ってすぐにユーチューブなどの動画サイトで学びます。時間が圧倒的に貴重な資源になっているので、とても合理的なやり方です。ただ、そうした学びは表面的なものに終わってしまうのが一般的です。
異質な知と知を結びつけるのがイノベーション、新結合です。それには普段接していないものを見つけ、そこから知見を得なければなりません。私の周りで発想力に優れた人をみていると、実に様々なイベントに出たり、遠くに旅行に行ったりしています。発想力はその人の移動距離に比例するのかもしれません。知の探索にはそれなりのコストや時間は必要なのだと思います。

ビジネスパーソンの学びにも
測定基準を

学習効果の物差しとしての
「日経TEST」

ビジネスパーソンの学習にも、勉強の成果を測る物差しが不可欠です。日本のビジネススクールが海外の学生を受け入れるとき、『GMAT』と呼ばれるテストなどでどれくらいのスコアを取っているのかをみます。しかし、日本の学びの世界には、学びの共通基準や測定基準がありません。
日経TESTはその有力な物差しの1つだと思います。生産性の高い人材となり希望のキャリアを歩むためには、学習し続けるとともにこうした学びの測定手段を用いて定期的に学習効果を振り返るのが良いと思います。