出世ナビ 記事セレクト

最強のチームビルディング

満足度No.1ホテルに学ぶ「お願い対応」のスゴ技(堀 公俊)

第23回 「代わりに」 できない理由より、できることを考える

顧客満足度ナンバーワンホテルが誇るサービス

 毎年さまざまな機関がホテルの満足度ランキングを発表しています。数ある日本の宿泊施設の中で、10年連続ナンバーワンの座を勝ち取ったホテルがあります。全国4つの施設を展開するザ・リッツ・カールトン・ホテルです。

 同ホテルといえば、「私たちは、紳士淑女におもてなしをする紳士淑女です」というモットーが有名です。顧客の召使ではなく、紳士淑女が望んでいることが分かる人になろうというのです。

 ここでは、従業員一人ひとりが顧客の望むことを考え、自らの判断で顧客の要望を実現させていきます。そのために、一定の裁量権がスタッフに認められています。本日が宿泊客の誕生日だと分かると、豪華な花を用意して部屋を飾る、といったことができる仕組みになっているのです。

 また、どんな要求にも「できません」とは答えません。精一杯できることを探して、顧客の欲求を満たそうとします。このホテル自慢の「Noと言わない」サービスです。

 昨年放映されたNHK「探検バクモン」では、8月なのに「花見をしたい」という無茶な外国人客の事例を紹介していました。桜の造花を探し出して部屋を飾り、弁当まで用意して、日本のお花見を味わってもらった、

 もっとすごいのは、「相撲の稽古を受けて、力士と取り組みをしたい」と言われ、相撲部屋を一生懸命にあたり、引き受け先を見つけ出したそうです。それがダメな場合は、稽古を見学してもらうなど、代替案を提案したとのこと。そこまでやるからこそ、満足度ナンバーワンです。

たとえ1%でもできることを提案する

 依頼に対してストレートにノーと言うと、相手の要望を全面否定することになります。理由はともかく、完全に拒絶されるというのは、あまり気分のよいものではありません。

 実際には、100%不可能であることは少なく、たとえ1%であってもできることを提案してあげれば、相手は喜びます。活用したいフレーズとしては「代わりに」(その代わり、できるのは、だったら)です。

 NG 「プレゼンを引き受けてくれないかな?」「無理です」
 OK 「プレゼンを引き受けてくれないかな?」「ちょっと難しいですね。その代わり、根回しが必要であればやってもいいですよ」

 プレゼンの目的は、相手を説得してこちらの言い分を通すことです。別の手段で目的が達成できれば、依頼に応えたことに変わりありません。いったん、目的に立ち戻って、他の手段でできないかを考えてみるのです。

 OK 「それって何のためにするのですか? もし、部長を説得するのが目的なら、他のやり方で協力ができるんですが……」

取引や貸し借りにならないように

 こういったやり方を「ウィン・ウィン・アプローチ」と呼びます。それぞれの言い分に勝ち負けをつけるのではなく、それなりに満たす(勝ちに回る)ことから名づけられています。

 依頼を受ける代わりに、交換条件を出すという手もあります。依頼に協力する見返りや埋め合わせとして、こちらの依頼を引き受けてもらうのです。

 OK 「困ったなあ……。代わりに、本部に出す環境報告書のとりまとめを引き受けもらえますか? こういうのは苦手なもので」

 こんなふうに、互いの持ち味を生かし、適材適所によって全体の効率を上げるのが望ましいやり方です。2者間で難しければ、3者、4者と利害関係者を増やして玉突きをすれば、どこかで折り合う策が見つかるかもしれません。

 逆に、単なる取引材料として交換条件を持ち出したり、貸し借りをするのは、あまり感心しません。

 NG 「またですか。じゃあ、埋め合わせに、今度おごってくださいね」
 NG 「またですか。じゃあ、次はこちらの要望を聞いてくださいね」

 短期的にしのげても、繰り返すうちに「報酬がないとやりたくない」となりかねないからです。健全な関係づくりの足を引っ張る恐れがあります。

問題解決の新たな提案をしてみる

 「ウィン・ウィン・アプローチ」に、もう一つ違ったやり方があります。単に依頼をこなすのではなく、相手が抱える問題のもっとよい解決法を提案して、それに協力するのです。

 一つ例を挙げましょう。ある日、Aさんは上司から「職場の懇親を深めたいので、飲み会の場所を押さえてくれ」と頼まれました。最近、職場がギスギスしていることもあり、コミュニケーションを促進しようと考えたのです。

 ところが、飲み会となると、みんな言いたい放題で、人の話なんかまともに聞いていません。ストレスの発散になっても、とてもコミュニケーションが深まったとは言えません。無礼講といってもホンネで話す人はおらず、最後は上司の説教か誰かの愚痴を延々聞かされるのがオチです。

 そう思ったAさん、上司に「だったら、飲み会よりもっとよい方法があるのですが、やってみませんか?」と提案したのが「リーダーズ・インテグレーション」です。上司と部下の関係性を高めるチームビルディングのエクササイズです。

 詳しいやり方は省きますが、部下だけで(1)上司について知っていること、(2)知りたいこと、(3)知っておいてほしいこと、(4)部下が上司にできることを洗い出し、後で上司がコメントしていくものです。飲み会よりはるかにホンネが出て、「いかに分かり合っていなかったか?」が分かります。

 実際、Aさんの職場でも2時間かけてやってみところ、互いに思いがかみあっていないことがよく分かりました。その後で飲み屋に繰り出すと、いつも以上に大いに盛り上がったのでした。

巡り巡って必ず自分に返ってくる

 こんなふうに、どんな依頼でも何かできることがあるはずです。少しでも協力する姿勢を見せることで、チームの関係性は深まっていきます。

 今の世の中、暇な人なんてどこを探しても見当たりません。みんな忙しく働き、自分のことをこなすので精一杯です。何かをお願いされても、つい面倒になって言い訳ばかりしたくなります。

 しかしながら、弁解を言い合っているうちは本当のチームになれません。「できない理由」ではなく、ささいなことでも「できること」を探しましょう。そのほうがよほど生産的であり、チームビルディングに寄与します。

 中には「自分のことは自分で何とかしろ(=自立しろ)」と言う人もいます。もちろん、人に頼ってばかりでは一人前とは言えません。

 しかしながら、「自分のことは自分でやる」だけが自立ではありません。「自立した個が協力し合って、互いに支え合う」のが本当の自立です。「相互依存」こそが真の自立なのです。

 昔から日本人は、「情けは人のためならず」といって、依頼に応えることを奨励してきました。他者のために何か役立つことをすれば、直接の報酬(見返り)がなくても、巡り巡っていつかどこから自分にも返ってくるからです。

 依頼を断る前に、何だったらできるかを考え、できることを提案してみましょう。その積み重ねが、いつかあなたを救ってくれるはずです。

◇   ◇   ◇

満足度No.1ホテルに学ぶ「お願い対応」のスゴ技(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

  • よくわかる管理会計の基礎と実践

    会計の基礎知識を考える力にする続きを読む

  • 財務諸表分析と企業価値評価の基本

    企業価値向上の好循環を生みだす続きを読む

  • ファシリテーション能力開発

    ファシリテーションの第一人者がエッセンス・スキル・ノウハウを伝授続きを読む

バックナンバー

NIKKEI STYLE

最新記事一覧

おすすめの講座

  • 会社役員・幹部向けベーシックコース
  • 働き方改革プロジェクト実践講座
  • 上司力養成講座特集
  • ビジネス基礎力特集
  • ビジネススキル再点検
  • 日経緊急解説Live!
  • 日本版エグゼクティブ研究会
  • お気に入り登録&マイページ便利な使い方