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異文化マネジメントに不可欠な戦略的人的資源管理

■戦略の本質とは何か

異文化マネジメントに不可欠な戦略的人的資源管理

 さて、グローバル戦略論で言う「現地化」とは何でしょうか。現地化する人材の国籍や、どこまでの権限を持たせるのかなど、現地化の意味は定義によって大きく変わってきます。実践には正しい問いを立て、定義をすることが重要である一方で、組織の「慣性」を変えることは容易ではなく、多くの進出企業にとって課題となっています。また、実践には先ほど述べた「知識創造」とその核となる人的資源が必要ですが、現地責任者は人材開発にかけるコストを削減しがちなのが現状です。

 米ハーバード・ビジネススクールのロバート・キャプラン教授は、明確なビジョンを伴ったリーダーシップと戦略やオペレーション業務(戦術)はどちらも必要だが、異なるものであると解釈し、混同しないことが事業戦略の履行を成功させる鍵になると論じています。組織としてどこまで、どの時点まで実践し、どの時点で引き返すのかという境界を線引きをすること。何をして何をしないのかを明確にすることは難しいですが、戦略の本質はここにあります。

■戦略的人的資源管理が必要な理由

 米経済誌「フォーチュン」が発表している世界企業番付「Fortune Global 500」の430社を対象に行われた学術研究によれば、北米・欧州・アジア3つの地域から、満遍なく収益やシェアを獲得している企業は9社のみという結果が示されています。既存研究では繰り返し指摘されてきたのですが、それ以外の7~8割の企業は、本社拠点のあるホームエリアから主な収益やシェアを獲得しており、このような事実が、「国際化」と「グローバル化」の狭間にある「リージョナル化」に焦点を当てた戦略が重要な理由です。

 組織が扱うモノ、カネ、情報、などといった資源の中でも、ヒトはほかの要素とは異なる特性を持っています。考えて成長するヒトはほかの資源を動かす原動力となり、付加価値を与えることができます。マネジメントや戦略の善しあしも、ヒト次第ということです。

 人的資源管理は、元は人事労務管理(パーソナルマネジメント)から生まれたもので、企業の戦略と人的資源管理施策が結びついたのが、戦略的人的資源管理(ストラテジック・ヒューマン・リソース・マネジメント)です。人事労務管理では、ひとつひとつの人事の仕組みや施策が、ほかの組織内の活動と水平的にがどれだけシンクロナイズされているかという、内部の水平的適合がトピックでしたが、企業活動の戦略の適合を考える戦略的人的資源管理では外部の要因が大きく影響してきます。

 ここで企業の国際展開プロセスを理解する際に有用な、バートレット=ゴシャールによる企業のグローバル化に関する戦略のフレームワークを確認しておきましょう。企業に求められる商品やサービスの「グローバル統合(グローバルインテグレーション)」と「現地化(ローカルアダプテーション)」の度合いを縦軸と横軸に取ると、戦略を4つの象限に当てはめて考えていくことができます。

 「グローバル統合」と「現地化」の程度がどちらも低ければ、直接投資は必要なく、商品を輸出していくことにフォーカスした「国際戦略」となります。「現地化」よりも「グローバル統合」の程度が高ければ、生産システムや事業の仕組み自体は本国主義的で、規模の経済性や標準化などが重要になります。各研究によって名称が異なることはありますが、ここでは、これを「グローバル戦略」と呼びましょう。

 この戦略のもとでは、現地子会社は、本社の指示を受け事業を進めていくという受容的子会社となります。「グローバル統合」よりも「現地化」の程度が高ければ、ローカルに適応した商品やサービスをカスタマイズしたり、チャネル戦略や事業の進め方も現地適応していく「マルチドメスティック戦略」となります。ここでは、現地の実情に合わせて実行できる自律的子会社が求められます。

 これを各機能レベルで見ていけば、結局は「グローバル統合」と「現地化」、どちらも大切ということになるのですが、最近注目を集めているのが、「トランスナショナル戦略」で、ここでは活動的子会社が求められます。トランスナショナル戦略は理想形で非現実的と言われてきましたが、例えば米グーグルのように、基本となるサービス構造は統合し、言語は各国に合わせる「ボーングローバル企業」も生まれてきています。

 試行錯誤のうえ、商品やサービスの最適化を追求していくには、戦略的な意図と人材戦略に一貫性を持たせていくことが重要になります。コンテキスト(背景や環境)を共有していない国へ企業が国境を越えて出ていく時、根源的な問いに答えられなければ人材育成もできません。様々な視角があるのですが、最もオーソドックスな戦略論では、グローバル企業の主な経営課題とは、「どの活動に投資が必要なのか」「その活動をどこに位置づけるのか」という競争優位性を生み出す意思決定をしていくことが重要です。

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