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異文化マネジメントに不可欠な戦略的人的資源管理

■異文化マネジメントは己を知ることから

異文化マネジメントに不可欠な戦略的人的資源管理

 ヘールト・ホフステードが職業や仕事に関して人々が持つ価値観を国の文化と関連づけた4つの類似性(権力の格差、個人主義対集団主義、男性らしさ対女性らしさ、不確実性の回避)で日本人とタイ人を比較すると、一般的に言われるほど、文化的距離は近くないことがわかります。この類似性の違いがマネジメントにどのような影響を与えるのか、一つ一つのフレームワークを重ねてみてください。価値観はさまざまなので、コミュニケーションだけでなく評価の方法、仕組みもさまざまです。日本はチームでのパフォーマンスを重視しますが、タイは協調・調和を重視します。

 日本型経営の普遍性をどれだけ客観的に評価できているかと考えた時、日本人は私たちが思っている以上にとてもユニークな存在なのではないでしょうか。ホフステード指数を用いて国と国との文化的距離を測る「コグート=シン・モデル」で文化的な距離というものを計算すると、日本と文化的距離が1以内の国はハンガリーしかありませんが、タイは27カ国もあります。大事なのは、自らのものの見方を相対的に理解することであり、異文化マネジメントにおける障壁は文化の違いではなく、信頼の欠如とも言われています。

■現地の発展なくして企業の成長はない

 これからの時代、いかに優秀な人材を組織に取り込むかは非常に重要なトピックです。日本企業は就職先として人気がないという現実も直視しなければなりません。日本企業離れが急速に進む今、日本が新興国であった時代に国内で成功した外資系企業の人材マネジメントを学ぶのも手でしょう。企業が人を選ぶ日本モデルから、企業が人に選ばれる新興国モデルにシフトするためにも、私たちは日本企業であることを売りにするのではなく、企業としての魅力を売りにできるようブランディングに注力しなければなりません。日本経済新聞の記事にも、「地球どこでも人手不足」という見出しがありましたが、このような状況下でどうやって優秀な人を惹きつけるのか。例えば、ペプシコやユニリーバの人事担当者は、優秀な人材を確保するために当校のMBA(経営学修士)取得者のもとへ年に2回は訪れます。シンガポールのマンパワー省の官僚は月2回です。果たして日系企業はここまでのコミットして、真剣に取り組んでいるでしょうか。

 私たちは自身のことをよく知ることから始めなければなりません。新興国での高い離職率、低いコミットメント、責任感の低さという現実は、日本も終身雇用が生まれる前に通ってきた道で、時間をかけて変化してきたことも忘れるべきではなく、もしかすると「問題」としてではなく「過渡期のスタイル」と捉えるべきなのかもしれません。繰り返しとなりますが、重要なのは、ものごとを正しく理解することです。

 現地で作って現地で売るこれからの時代、新興市場を意識したものづくりから課題解決型・ソリューション提供型のビジネスモデルの構築、そしてそれに同期した人材開発へとシフトしていく必要があります。新興アジアが直面している少子高齢化や環境問題といった課題は日本にも経験がありますので、ノウハウを生かすことで現地の発展に貢献できるはずです。スピード感を持ちつつ、問題意識を正しく持つことが組織の発展にもつながります。同時に、自らを省みることをしなければ、組織の成長性・収益性は落ちていきます。ただし、経験はプラスだけでなく時にマイナスにも作用します。新興国においてはマイナスにふれてしまう可能性も意識すべきです。

 今あるものをベストに組み合わせて創新するイノベーションを起こすことも重要です。発想を転換してイノベーションを起こすのはヒト。21世紀はヒトをめぐる戦いの時代であり、コンペティションからコラボレーション(アライアンス間)の競争の時代ということになります。

 また、物的資本の時代から、関係性や社会性の社会資本、まさにネットワークの時代となった今、日本としていかに社会資本を豊かにしていくかを考えなければなりません。モノがあふれている時代、見えない資産にいかにして付加価値をつけていくか。例えば、ヒルトンホテルはいかにして部屋数を増やすかを考えてきましたが、民泊サービスのAirbnb(エアビーアンドビー)はあっという間に利用できる部屋をパートナーシップにより増やしました。パワーバランスは縦から横にシフトしており、人事においても選ぶ立場から選ばれる立場に変わってきています。

 日本企業がメコン地域と共に発展していくためには、これまでの「成長モデル」から「発展モデル」にシフトしていかなければなりません。成長と発展は似ていますが、どれだけボトムの層が豊かになり、貧富の差が縮まるかいう点で異なります。メコン地域の発展に寄与し、ボトムの層を底上げすることなくして、日本企業の発展もありません。利益を上げ、コストを下げることも大事ですが、哲学や美学といった意識、つまり絶対的な価値を持つことが、選ばれる魅力になります。

◇   ◇   ◇

藤岡資正氏(ふじおか・たかまさ)
チュラロンコン大学サシン経営管理大学院ファカルティ兼 日本センター所長

英オックスフォード大学サイード経営大学院修士課程及び博士課程修了(経営哲学博士)。米ケロッグ経営管理大学院客員研究員、チュラロンコン大学サシン経営管理大学院エグゼクティブダイレクター及びMBAプログラム専攻長を歴任。現在、サシン経営管理大学院のほか、名古屋商科大学客員教授、早稲田大学客員准教授、コーポレイト・ディレクション(CDI)エグゼクティブアドバイザーなどを兼任。

(ArayZ 北果林)

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