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21世紀の企業倫理と経営命題~コンプライアンス超えたIKEAのCSR

CSRは企業にとって戦略的な活動

 その背景には、IKEA独自でインドの児童労働の実態を調査し、現地では子供も貧困家庭の収入を支える存在であり、単に児童労働を行わせている企業を排除するだけでは、むしろ子供がより劣悪な仕事に追い込まれる、という事実を会社として直視したことがある。その結果、まずIKEAは、委託先に対しては児童労働の改善指導を行うと共に、生産性向上のための技術指導を提供することにした。合わせて、児童の正規の就業率が高まるように現地教育への投資まで行うのである。

21世紀の企業倫理と経営命題~コンプライアンス超えたIKEAのCSR

 これは明らかに経済合理性や法令順守の観点からは過剰な行動である。だが、このような社会的問題の解決にまで企業として直接関与することで、インドにおける持続的な生産を可能としただけでなく、倫理的な行動を通して顧客や市場、そして社会からのリスペクトをIKEAは獲得することができたことになる。

 これが企業のブランド価値を高めることになり、消費者からの支持だけでなく、優れた人材を引き付けることにもなり、(IKEAは非上場企業であるが)最終的には企業価値の向上に結びつくのである。つまり、CSRはナイーブな社会貢献ではなく、企業にとって大いに戦略的な活動とも言えるのだ。

 さて、わが国にCSRという概念が導入された直後にはフィランソロピー(社会貢献)的なものとして理解されて、芸術や福祉活動への寄付活動など景気が悪くとなると止めてしまうような持続性のない表層的な取り組みが多かった。ここに来て、日本企業のCSRへの取り組みも深化しているように見受けられるが、前回論じたビジョンや経営理念と同様に、ガバナンスの一環として経営の基軸に位置付けられることが重要だ。日本企業に限らず、特に業績面とのトレードオフが発生した時に、社会倫理的判断をどこまで優先できるかがここでも問われているのだ。

株主価値創造そのものが経営判断や企業行動への規律に

 これまで、やや足早に今日のコーポレートガバナンス問題を俯瞰してきた。その結果、ガバナンスというレンズを通して見ることで、そもそもの企業のあり方を立体的に考察することができたのではなかろうか。どういうことかを改めてまとめる。

 ガバナンスというレンズで最初に浮かび上がったのが、株主価値の創造に向けて事業の収益力と成長力の極大化を追求する経済合理的な存在としての企業である。次に法令に基づき体制や制度を整備し、コンプライアンスを徹底するという順法的な存在としての企業である。そして、三つ目に見えたのは、不正行為に関与しないということは当然として、時に経済合理性や法令等で求められる範囲を超えてでも社会問題の解決に取り組むという社会倫理的な存在としての企業である。

 ややもすると、経済合理性と法令順守および社会倫理性とを対立的に捉えて、コーポレートガバナンスを経済合理性に対する順法性と倫理性によるチェックアンドバランスとして論じられる場合があるが、株主価値の創造という観点からは三者は本質的に矛盾するものではない。法令違反がどれほど企業価値を大きく毀損する一方で、社会倫理的な行動が顧客や市場からの支持に結びつくことは、これまで述べてきた通りである。

 むしろ、経営者の株主に対するFiduciary(受託者)義務が基本となる今日のコーポレートガバナンスの理念においては、株主価値創造そのものが経営判断や企業行動へのチェックアンドバランス、すなわち規律になっていることも、本稿で繰り返し述べてきた。

 だが、どんなに理念的には整合しているとしても、現実の株主価値経営は大きな問題を露呈し、社会の批判を浴びている。例えば、英米で顕著な経営者の過大報酬の問題。この背景には、初回で紹介した英米型ガバナンスの基本思想として、経営を負託された経営者と、リソースに過ぎない一般社員と言う区分がある。前者は株主価値に直結した報酬を受け取り、後者は基本的にサラリーであり、時価総額の大きな企業のトップは巨額の報酬を受け取ることができる。もっとも、業績不振が続けば、交代になるタイミングも早い。

 このことは、結局経営者を短期業績志向に走らせることになり、それが頻繁なリストラや事業再編に結びつき雇用を不安定にして、社会の疲弊や不満を生んでいる。また、キャッシュ最大化の観点から租税回避を行う企業に対しても政治的批判が高まっており、その代表がアップルやグーグルである。また、最近では製薬会社のファイザーによる税回避を目的とした大型買収が頓挫した。つまり、企業は消費者に商品を届けているものの、市民社会からは遊離して信頼を失っている状態にあるのだ。

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