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シャープはホンハイ傘下で再生できるのか? 問われる「目の付け所がシャープ」な思想

「身売り現象」の発達要因

 発達要因は、「シャープの社員たちが、どのようにして『身売り』現象を習得していくのか」という問いだ。これは、身売り前から身売り後の各段階に分けて、考える必要があろう。

(写真:PIXTA) (写真:PIXTA)

【1】「身売り」前:「液晶一本足」へと傾斜していく中では、社員は、「目の付け所がシャープ」という製品開発者的思考・行動から、「あらゆるものに液晶を」という部品・素材の用途開発者的思考・行動に、切り替えざるを得なかったであろう。また、パネルの大型化、「液晶コンビナート」化という経営方針に基づき、エレクトロニクス・メーカーとしてよりは、鉄鋼や化学品のようなプロセス産業的な思考・行動に適応していったであろう。消費者目線の創意工夫よりも、歩留まり率や稼働率が重視されるようになったであろう。

【2】「身売り」直前:シャープの「勝利の方程式」が崩壊し、経営危機が顕在化した後は、
(1)会社の身売り前に有能な社員がまず自身を身売り(転職)するか、(2)金融機関の管理下に置かれ、雇われ再建コンサルタントが跋扈する中で、現場で思考停止や自失状態に陥るか、あるいは、(3)NBOの記事にあるロボホンのように(商売は抜きにして)シャープの意地を見せるか、であろうか。巨大客船タイタニック号の沈没直前の船内状況を髣髴させる。

【3】「身売り」後:ホンハイの傘下では、もちろん新たな支配者の経営方式に適応せざるを得ない。これまでのシャープのやり方をアンラーニング(脱学習)して、ホンハイ流をラーニング(学習)することになろう。

「4つのなぜ」から今後のシャープの企業再生を考える

 以上の仮説を元に、「今後シャープはホンハイの傘下で再生するのか?」という問いへの答えとなる仮説を考えてみよう。

 「再生」が、企業収益の好転を意味するのであれば、ホンハイの厳しいコスト管理と貪欲な営業力の注入によって、シャープは黒字企業になるであろう。ただ、そのためには、おそらく事業・投資の再編、大規模な人員整理や人件費削減、高固定費を解消するための資産リストラは、不可避であろう。シャープが単一企業として存続できるかも危ぶまれよう。ホンハイの買収前の「約束」は反故にされ、シャープ社員や債権者にとって、厳しい現実はこれからが本番となろう。

 「再生」が、林總氏の言う、シャープ本来の「小ぶりながら、時代の流れをしっかりと読み取り、常にきらりと光る個性を持った製品を世に送り出し続ける」企業に立ち戻ることを意味するなら、恐らく難しいであろう。ホンハイの製造受託の文化と厳しい収益管理は、消費者目線に立った開発の創造性や遊び心とは相容れない。規模の経済とコスト最優先の思想は、製品差別化やマーケティングを軽んじる。「目の付け所がシャープ」な製品を今後も出してはほしいが、過大な期待はすべきではなかろう。

 以上「4つのなぜ」を使って、企業と経営者の進化を考えてみたが、いかがだったろうか?次回も、また別のケースで試してみよう。

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シャープはホンハイ傘下で再生できるのか? 問われる「目の付け所がシャープ」な思想
今村 英明(いまむら・ひであき)
早稲田大学ビジネススクール(早稲田大学大学院経営管理研究科)客員教授。信州大学経営大学院教授。東京大学経済学士、東洋大学文学修士、スタンフォード大学MBA。三菱商事、ボストン・コンサルティング・グループ(シニア・パートナー、上海事務所長、日本法人代表取締役など)を経て、2010年から現職。

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