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白熱MBA講義

三菱自動車の燃費偽装に見る「無常な生物システム」としての企業と経営者

「隠匿・偽装などの欺き行動」の究極要因

 究極要因は、「隠匿・偽装などの欺き行動は、企業行動上、なぜ有利なのか」という問いになる。至近要因からも明らかであるが、次の通りであろう。

【1】見かけの競争優位:少ない開発予算と低い技術力でも、競合を上回る高い燃費効率を市場に訴求でき、エコ減税措置も受けられ、少なくとも短期的には競争優位につながる。

【2】立場の防衛:当事者は、開発目標を達成でき、自工社内での地位が保全される。場合によっては、開発部門への期待と信頼はさらに高まる。

 しかし実際には、偶然の事情もあって、提携先の日産自動車が三菱車の燃費を実測した結果、カタログ値と実測値の間の大きなかい離に気付き、自工の欺き行動が露見した。こうなると、究極要因は逆転して、次のようになる。

【1】より深刻な競争劣位:販売不振、ブランド失墜、工場停止、企業価値下落、被買収、…という最悪の事態が発生した。

【2】立場の喪失:関係者は処分され、開発部門は信用と信頼を失い、日産自動車の管理下に置かれることになった。

 つまり、「見破る仕組みや能力」次第で、「欺き行動」のリスク対リターン評価が極端に分かれる。いわばハイリスク・ハイリターンである。報道を見る限り、関係者が箝口令を敷けば、第三者が検証試験を行わない限り、不正を見破るのは難しい。

 当事者しか品質に関する本当の情報を持てない、というこのような状況を、「情報の非対称性」という。倫理的観点はともかく、情報の非対称性があり、かつそのリターンが大きい場合、当事者が「欺き行動」を選択するのは、それなりに合理的と言われる。特に、危機に瀕し、切羽詰まれば、背に腹は代えられない。

 同時に発覚したスズキ自動車の例でも明らかなように、どんな企業でも燃費競争の激化により、燃費の欺き行動の動機づけ(誘惑)が常に働いている訳で、「性善説に立ってメーカーの言い値を信じている」と言う規制当局(国交省)は、相当のマヌケであり、また怠慢であるとも言える。

「隠匿・偽装などの欺き行動」の系統進化要因

 系統進化要因は、「その企業の過去から、どのようにして隠匿・偽装などの欺き行動が生まれてきたのか」という問いになる。至近要因にもあった「企業体質」の形成に関わる問いである。

 前項の通り、今回のような状況では、欺き行動への誘惑はどんな企業・社員にも常に働く。ただ三菱自工の場合は、今回だけでなく、過去も2000年のリコール隠匿問題、2002年トラック事故原因の虚偽報告問題、2004年のリコール再発問題、…と同様の欺き行動が頻発している。しかも露見するたびに何度も「改革」したのに再発している。「常習犯」と言っていい。発覚していない欺き行動はまだあるかもしれない。

 切羽詰まっての欺き行動は、自工組織に染みついた「筋金入り」のものだ。なぜこうした組織に進化してきたのか? 各種記事にはこの点で細かい記述がないので、想像で仮説を立てるしかない。無理を承知でやってみよう。

【1】親譲りのDNA:自工は、三菱重工の自動車部門として発足し、戦後に分社・独立した。重工社員は憤慨するだろうが、「常習的欺き行動は、重工からの親譲り」という仮説はおかしくはなかろう。実際、重工でも、表には出てはいないものの、性能基準が未達の場合に自工と似たような行動を現在でもしている、と仄聞する。親譲りの要因の仮説としては:
(1)B2B的意識・行動様式:重工の事業の大部分は元来B2B(法人向け)ビジネスで、防衛省などの官公庁や電力会社などの大口顧客との長期相対取引が伝統的に強い。仮に、性能未達などの技術問題が発生しても、顧客との「協議」によって、表沙汰にせずに収めるのがふつうと聞く。筆者も個人的にそうした事例を見聞きしている。現在自工はB2C(消費者向け)の乗用車事業が主体とはいえ、三菱ふそうトラック・バスが自工から分社されるまでは、永年B2B事業を抱え、そうした半ば「談合的問題処理スタイル」の意識と行動を引き継いでいると思える。またB2C顧客=消費者に対する意識不足も遺伝してそうである。
(2)分担の壁:重工は、伝統的に各組織がタコツボ化し、本社―事業所間、事業部門間、機能部門間など組織間の壁が厚く、なお総合力を発揮させるために、現在もその厚い壁を取り払う取り組みに苦労しているという。壁の厚い組織では、仮に問題が起きても「内輪の恥は外部には出すな」というムラ防衛的意識が働く。この顧客ではなく「オラがムラ」「オラがタコツボ」を最優先する意識と行動は、自工にも遺伝しているのではないか。
(3)総花主義:重工は「技術のデパート」、「一流メーカー」と言われるが、実は技術力には大きなバラツキがあると聞く。「世界シェアトップの製品はほとんどなく、実は1.5流か2流技術の集合体」と自嘲する重工幹部の嘆きを直接聞いたことがある。デパートとして総花的に開発し、その結果資源が分散し、突出した技術優位を形成しえなかったのではないか。その総花主義の弱さを自工も継承しているのではないか。

【2】多重の格差構造:重工をはじめとした親会社と三菱自工との関係、自工とその関係会社・下請けとの関係など、多層の格差構造が存在し、情報の非対称性と欺き行動を助長した可能性が高いのではないか。
(1)優秀な親とできの悪い子:自工の歴史を振り返ると、独立企業としての期間は実は長くない。発足時は、クライスラーと重工の合弁事業、その後重工の一事業部門、1970年の分社後業績好調時は独立心が旺盛であったが、90年代に業績が低迷するとダイムラーが出資・経営、ダイムラーが自工再建をギブ・アップすると、重工・商事・銀行などの三菱グループが幹部を派遣して経営してきた。永年、自工自身の経営力は疑われ続け、一段格下に見られ、常に保護者と監督者が傍におり、「出来の悪い子」扱いを受け続けてきたのではないか。とすれば、自工社員は、「どうせ彼ら(親会社他)には分からない」と思い、自己防衛のために肝心な話はしないようにするのは自然ではないか。
(2)本社エリートと現場叩き上げ:同様の格差構造は、自工社内の本社と現場、また自工とその関係会社や下請け業者との間にもありそうである。とすれば、現場側は、同様に「どうせあいつらには分からない」として仲間内で情報を処理しているのではないか。どこの世界でも、現場での不正は、現場でどっぷりと仕事をした人間でないと見抜けない。過剰な目標を押し付けられた下部組織がどういう自己防衛行動をとるか、現場経験の少ない本社エリートたちにはピンとこないのも自然だろう。
(3)弱い人材:弱い会社には弱い人材しか集まらない。自工は、開発競争を勝ち抜けるための強い人材に恵まれてこなかったのであろう。

>> 「隠匿・偽装などの欺き行動」の発達要因

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