第19回 「あえて」 時には無理に考えてみる
日本の会議の最大の問題点とは?
「ファシリテーション白書2014年版」(日本ファシリテーション協会)は、話し合いを促進するファシリテーション・スキルの普及度合いを定点観測した調査資料です。その中に、約1000人の方を対象にして、日本の会議の現状を調べたデータが載っています。
興味深いのは、「あなたが参加した話し合い・会議がうまくいかなった要因はなんでしたか ?」という設問です。1位、2位が何だか分かりますか。
1位が「発言が一部の人のみに偏っている」(22%)、2位が「本音で話すことができない雰囲気がある」(15%)です。そう言われると、「どこも一緒なんだな……」と思う人が多いのではないでしょうか。
「なぜ、こうなってしまうか?」はおおよそ想像がつきます。
議題の内容はあらかじめ根回し済み。シナリオ通りに話し合いが進み、意見を言っても結論が変わることはありません。筋書きにないことを言ったり、若者や部外者が思うままに発言したりすると、「空気を読め」「場をわきまえろ」という無言の圧力がかかってきます。
議論が巻き起こったとしても、多くの人にとっての関心はみんなと同じ意見であること。自分の意見は心の中に封じて、大勢になびこうとします。その結果、合理的でない提案が、その場の勢いで全会一致で決まったりします。
これを変えるには、一体、どうしたらよいでしょうか。
言いにくいことをあえて表に出す
状況を変える第一歩は、「同じ思いの人がいるはずだ」と信じて、勇気を持って発言することです。そのときに使いたいフレーズが「あえて」(強いて、無理にでも、わざと)です。
【NG】 わざわざ、ここで言うことはないんだけど……
【OK】 あえて、一言述べるとしたら……
「あえて」とは、「しなくてもよいことを困難や抵抗を押して意図的に行うさま」(大辞林)です。平たく言えば「余計なお世話」をしようというのです。「あえて」をつければ、言いにくいことでも出しやすくなります。
【OK】 あえて、この案の難点(疑問)を挙げるとしたら……
【OK】 強いて、反対の立場(違った角度)から述べるとすれば……
特に、日本の会議では、「言わぬが花」「知らぬが仏」となっていることがたくさんあります。ロジカルにことを進めるためには、それこそ「あえて」出すべきです。
【NG】 とりあえず、今日はこんなところで……
【OK】 あえて、誰がやるか、担当を決めておきませんか?
もう一歩踏み込んで、強制的に考えてみる
自分一人で考えているときも同じです。
人はどうしても自分に都合のよい結論を出しがちです。自分の考えに合う根拠ばかり集め、合わないものは目に入りづらくなります。
「当たり前だ」と思って検討しなかったり、考えるのが面倒で避けたりすることもあるはずです。これでは、ロジカルに考えたとは言えません。
そうならないためには、強制的に考えてみるしかありません。嫌がらず、もう一歩踏み込んで、あえて考えてみるのです。
【OK】 あえて、違う根拠(選択肢、基準)を挙げるとしたら……
【OK】 わざと、このロジックの弱いところを挙げるとすれば……
これは結構、勇気が要ります。やらなくてもよいことを、わざわざやるのですから。意思の弱い方は「そこまでしなくても……」となってしまいます。
そうならないためには、目標を設定することをお勧めします。「一つでいいから出そう」「最低3つ挙げてみよう」と数を決めておくのです。不思議なもので、数の縛りを入れれば、嫌なことでも頑張れます。
目標を決めれば必ず出てくる
本当かどうか、簡単なエクササイズをやって試してみましょう。
手元に白紙を1枚ご用意ください。縦横どちらでもよいので、真ん中に一本線を引いて、2つに紙面を分けてください。
身近な人を一人思い浮かべてみてください。「最も嫌いな人」「一番苦手な人」といったように、かなりのネガティブ感情を抱いている人を。上司、後輩、家族、友人、近所の人……誰でも構いませんから。
まずは、紙の半分にその人の劣っている点(短所、欠点、弱みなど)を箇条書きで簡潔に列挙していってください。いくら出してもらっても結構です。ただし、やり過ぎると、どんどん腹が立ってくるのでご用心を。
あらかた出しつくしたら、今度はその人の優れている点(長所、取り柄、強みなど)を「あえて」挙げていきましょう。目標は、少なくとも3つ、できれば5つ。どうしても無理な方は、最低1つだけでも構いません。無理にでも探し出してみてください。
いかがでしたか。3つくらいなら何とか見つかったのではありませんか。強制的に考えれば何とかなるものです。「あえて」は自分を追い込むためのフレーズでもあるのです。
「特にありません」で終わらせない
相手の考えを引き出すのにも「あえて」は役に立ちます。
会議をやっても意見が出ないことがよくあります。進行役が、「山田さん、いかがですか?」「田中さん、どうですか?」と指名をして発言を求めても、「特にありません」「いえ結構です」となってしまいます。
これも原因がいろいろあります。会議のテーマや進め方を見直したり、発言をする気持ちに蓋をしているものを取り除くのが本来の対処法となります。ただし、それをやっていると時間がかかります。もっと即効性の高い方法があります。「あえて」を使うのです。
【NG】 特にありません。
【OK】 あえて、意見を述べるとしたら?
【NG】 う~ん、山田さんの意見と同じです。
【OK】 あえて、何か付け足すとしたら?
こうやれば百発百中。嘘だと思う方は一度やってみてください。必ず何か意見が出てきますから。そうなればしめたもの。そこを突破口にして、「たとえば?」「なぜ?」「他に?」といったフレーズを使って、相手の心をこじ開けていきましょう。
どんな場でもやれることはあります。「無理だ」「どうしようもない」と諦めず、勇気を持ってあえてもう一歩踏み込むこと。それが状況を変える一助となります。
「最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は9月1日の予定です。
◇ ◇ ◇
![]() |
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。