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ビジネス戦略に不可欠な4つの地政学的力学 スペインIEビジネススクールに学ぶビジネスのための地政学(上)

 地理的な条件が外交を含む政治、経済などに与える影響を研究する「地政学」。その本場、欧州のビジネスエリートの間では必修知識とされてきたが、激動する世界情勢を背景に近年、日本でもの注目が高まっている。グローバル時代のビジネスにおける地政学の重要性とは何か――。この分野の権威、スペインのIEビジネススクールのミロ・ジョーンズ(Milo Jones)客員教授を招き、日経ビジネススクールが開いた特別セミナー「世界の一流校に学ぶ~ビジネスのための地政学」の主な内容を2回に分けてご紹介する。

スペインのIEビジネススクールのミロ・ジョーンズ客員教授 スペインのIEビジネススクールのミロ・ジョーンズ客員教授

 ミロ・ジョーンズです。はじめに簡単に自己紹介します。私は米国のニューヨークで生まれ育ちました。大学では美術史を専攻。卒業後、海兵隊に入り、軍隊で4年間過ごしました。除隊後、考古学の道に進み、中国やギリシャで研究をしていましたが、結婚してニューヨークに戻り、銀行マンへと転身しました。しかし、金融商品を扱う仕事が肌に合わず、退職して英ロンドンビジネススクールに入りました。そこでMBA(経営学修士)を取得した後、ロンドンのコンサルティング会社に就職し、経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートしました。「ドットコムバブル」が起きた2000年、ドットコム関連のスタートアップの立ち上げにかかわりました。ほどなくバブルが崩壊し、失業しましたが、それを機に、かねて関心のあった国際関係論を学ぼうと、ベルギー・ブリュッセルの大学院に入り、博士号をとりました。現在は、IEビジネススクールで教えながら、自らのコンサルティング会社を経営し、米食品会社の非常勤取締役なども務めています。年間200日ぐらいは、世界中を飛び回っています。

将来予測より良い質問

 きょうは地政学についてお話します。地政学の話というと、よく各国の状況をつぶさに説明する人がいますが、そういう情報は毎日、新聞を読んでいればある程度分かります。私は、そういった話はしません。

ビジネス戦略に不可欠な4つの地政学的力学 スペインIEビジネススクールに学ぶビジネスのための地政学(上)

 また、私は、将来の予測も申し上げません。経済学者のポール・サミュエルソンは「経済の予測は星占いのようなものだ」と言っていますが、地政学についても同じことが言えます。ですから私は、次の世界大戦がいつ起きるかといった将来予測は一切しません。

 さて、皆さんは、「賢い人」とはどんな人だと思いますか。多くの人が思い浮かべるのは、「質問されたことに対し、正しい答えを出す人」です。程度の差こそあれ、私たちは子どものころから、そういう教育を受けてきました。しかし、私は、この定義は間違っていると思います。

 多くの人が25歳ぐらい、ちょうどMBAをとるぐらいの年齢になると、あることに気付くのです。それは、正しい答えを出すことよりも、良い質問をすることの方が、はるかに重要であるということです。今夜、皆さんに学んでもらいたいのは、地政学を学ぶ価値は、将来を予測することではなく、より良い質問をできるようになることにあるということです。より良い質問ができれば、より良いビジネス戦略を立てることが可能になります。

全体を見る学問、地政学

 では、なぜ地政学が、より良い質問をする手助けになるか。それは、地政学が、すべてを統合する能力を身につける学問だからです。地政学は、言い換えれば、全体を見る学問です。また、地政学は、人ではなく場所に焦点を当てます。一国の行動を規定したり制約したりする大きな要因は、地理的要因です。米大統領に誰が選ばれても前任者やその前々任者と同じ行動をとるのは、地理的な制約があるためです。その国の文化を形作るのも、地理的要因です。かように地理的要因は重要なのです。

 人がよくビジネス戦略と呼ぶものの多くは、実は、戦略ではなく、戦術にすぎません。バランスシートや損益計算書(PL)は、重要でないとは言いませんが、それらが効用を発揮するのは戦略ではなく戦術においてです。企業トップが意思決定する際に見るのは、バランスシートやPLではなく、政府の政策や、業界全体の動き、NGOの言動や世界貿易機関(WTO)など超国家機関の動きです。そうして立案されるのが、ビジネス戦略というものです。

4つの地政学的力学とは

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 しかし、ビジネス戦略を立てるためには、さらに、その背後にあるものにも目を向けなければなりません。それが何かと言うと、地政学的力学です。これから、4つの地政学的力学について話をします。ただ、4という数は問題ではありません。ポイントは、戦略を立てるためには、小さな経済のさざ波を見るのではなく、大きな力学の潮流をとらえることが重要だということです。

 まず、1番目の地政学的力学、「地理」について話をします。地理に関して良い質問をするためには、少なくとも次の3つに関する正しい理解が重要です。すなわち、「エネルギー」「世界貿易の物流構造」「資源不足」です。

 世界のエネルギー消費量は、人口増加や中間層の拡大によって、これからも増え続けます。そして、少なくとも今後数十年間は、好むと好まざるとにかかわらず、化石燃料が主要なエネルギー源であり続けます。再生可能エネルギーや代替エネルギーが化石燃料にとって代わることはしばらくありません。なぜなら、再生可能エネルギーや代替エネルギーには貯蔵の問題があるからです。また、そうした新しいエネルギーでは、少なくとも当面の間は、発電や交通・輸送に使われる膨大な量のエネルギーを供給できません。

ローマ時代から変わらぬ世界貿易の物流構造

 次に、世界貿易の物流構造です。世界貿易の90%は依然、海上輸送に頼っています。ギリシャ・ローマの栄えた古代ヨーロッパ時代からこの状況は基本的に変わっていません。海上輸送が重宝される理由は、他の輸送手段に比べてコストが低いからです。現代の海上輸送で常に問題になるのが、ホルムズ海峡やマラッカ海峡など、いわゆる「チョークポイント」です。

 例えば、中国が輸入する原油の82%はマラッカ海峡経由です。つまり、中国にとっては、安全な海上輸送ルートの確保が至上命題になるわけです。ですから、中国はいろいろな島の領有権を主張しているのです。中国にとっては、離島の領有権問題は、漁業権や海底鉱物のためだけではなく、海上輸送の観点から非常に重要な問題なのです。この事実は、ビジネスパーソンとしてもよく理解しておかなければなりません。

資源不足や資源の枯渇は起きない

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 最後に、資源不足の問題について触れます。よく、資源不足や資源の枯渇が問題になりますが、資源不足や資源の枯渇は起きないと言えます。それは、国際商品の長期にわたる価格推移を見れば明らかです。

 インフレ調整済みの価格で見た場合、主要国際商品の中で上がっているものはありません。小麦も砂糖も銅もアルミも鉄鉱石も、みんな下がっています。人口が増えているにもかかわらずです。理由は単純です。価格が上がり出すと、需要側は消費を控えます。代替品も探し始めます。イノベーションが起きて、その商品の戦略的価値が失われます。

 例えば塩。食料の保存に欠かせない塩は、昔は、戦略的な一次産品でした。サラリー(給料)の語源が塩であることからも、その重要性がわかります。しかし、塩の戦略的価値は、イノベーションにより失われました。少なくとも地政学の領域においては、資源不足は気にすることはありません。

(ライター、猪瀬 聖)

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