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6つの技術「3grain」が世界を塗り替える スペインIEビジネススクールに学ぶビジネスのための地政学(下)

 地理的な条件が外交を含む政治、経済などに与える影響を研究する「地政学」。激動する世界情勢を背景に、ビジネスパーソンにとっても必修知識となってきた。この分野の権威、スペインのIEビジネススクールのミロ・ジョーンズ(Milo Jones)客員教授を招き、日経ビジネススクールが開いた特別セミナー「世界の一流校に学ぶ~ビジネスのための地政学」の主な内容を紹介する第2回。

 前回、ジョーンズ氏は大きな潮流を捉えるために4つの地政学的力学に注目すべきだと指摘、その第一として「地理」をあげ、「エネルギー」「世界貿易の物流構造」「資源不足」についての正しい理解が必要だとした。

スペインのIEビジネススクールのミロ・ジョーンズ客員教授 スペインのIEビジネススクールのミロ・ジョーンズ客員教授

多くの国で変わる民族構成

 しかし、2番目の地政学的力学である「人口動態」を見ると、皆さん懸念を持つかもしれません。将来予測は難しいが、人口動態に関してはかなりの確度で予測することができます。例えば、今年の79歳の人口を数えれば、来年の80歳の人口がどれくらいになるか分かります。人口動態の予測で確実なのは、高齢化の進行です。

 日本だけではなく世界的に高齢化が進みます。また、富める国では少子化が進みます。貧困国では人口がどんどん増えます。中国の人口は頭打ちになり、5年以内に、世界で最も人口の多い国はインドになります。順位はどんどん変わり、近い将来は、世界トップ10にフィリピンやエチオピアなどが入ってきます。

 また、多くの人が大都市のスラム街に住むことになります。楽観的な状況ではありませんが、こうした人口動態を見てビジネスプランを立てなければなりません。国によっては民族構成も変わってきます。米国では、2030年には人口の25%がヒスパニックになります。多くの国で民族構成が変わっていきます。好むと好まざるとにかかわらず、どんどん変化していくのです。

世界に最も大きな影響を与えたNGOは…

 人口構成の変化が、3つめの地政学的力学である「政治や文化の変容」をもたらします。米大統領は、かつてに比べ、様々な制約や圧力の中で政治をしなければなりません。圧力団体の一つがNGO(非政府組織)です。NGOというと、「グリーンピース」や「アムネスティ・インターナショナル」などを思い浮かべる人が多いと思いますが、この20年間で最も大きな影響を与えたNGOはどこでしょうか。

 構成メンバーが強い忠誠心を持ち、資金力もあり、世の中を変える力があり、政府も見過ごすことができないと考えるようになったNGOはどこか。「ゲイツ財団」でも「国際赤十字」でも「国境なき医師団」でもありません。答えは、「アルカイダ」や「ヒズボラ」といった国際テロ組織です。

 彼らは、信念を持ち、政府に圧力をかけ、世の中を、彼らの価値観から見て正しい方向に、変えようとしてきました。 世の中を変えるには、必ずしも組織が必要というわけではありません。個人でも変えることができます。私はコンサルタントをしていますが、いつも顧客に、今日の商品はすべてが情報商品だと言っています。ソーセージだってそうです。

個人でも世の中を変えることができる時代

 納得できない人にはこんな話があります。「フーデュケイト(Fooducate)」というアプリが米国にあります。「food(食料)」と「educate(教育)」を組み合わせた造語です。このアプリには、何百万という商品のデータベースが入っています。例えば、私がいまダイエットをしようとしていると仮定します。

 なるべくコレステロールの少ない食品を選びたい。一方、遺伝子組み換えはあまり気にしないが、グルテンは避けたい。こういった情報をすべてアプリに記憶させます。そして、そのアプリを使って店頭に並んでいる商品をスキャンします。すると、アプリが、「コレステロールを減らしたいならこちらの商品を買いなさい」と指示してきます。すべての商品が情報商品と言ったのは、こういう意味です。

6つの技術「3grain」が世界を塗り替える スペインIEビジネススクールに学ぶビジネスのための地政学(下)

 あるいは、「バイパルティザン(BuyPartisan)」という、「超党派」を意味する「bipartisan」をもじったネーミングのアプリがあります。米国では、200ドルを超える献金は個人からであろうと企業からであろうと、すべて報告義務があります。このアプリは、店頭で商品をスキャンすると、その商品を作ったメーカーの政治献金情報を教えてくれます。もし消費者が民主党支持者で、この商品のメーカーが共和党に多額の献金をしていたとすると、アプリは違う商品を買うよう指示を出します。

 ウォルマートは「紛争鉱石」(注:内戦などの資金源として採掘される鉱石)を使った商品が同社の商品ラインナップの中に紛れ込んでいないか常にチェックしています。主な理由はNGOに監視されているからです。今や、NGOだけでなく、倫理意識の高い多くの消費者が企業をウオッチしています。もはや企業が秘密を持つことはできない時代になっているといえます。

影響の予測が難しい科学技術の発展

 最後の地政学的力学、「技術」の話です。技術が、エネルギーや軍事力、経済、人口動態、政治、文化などあらゆるものに影響を与えることは言うまでもありません。問題は、どんな影響を及ぼすのかを予測することが非常に難しいことです。

 例えば、有名な「ムーアの法則」は半導体世界大手、米インテルの創設者の一人ゴードン・ムーア氏が1965年に発表した半導体の処理能力やコストに関する予測ですが、発表した当時は多くの人はその予測を信じませんでした。

 また、中国の人口の性別のアンバランスは、一人っ子政策のせいだけではなく、胎児の性別を判断できるようになったことが大きいのです。このテクノロジーはもともと、60年前に開発された船体のヒビを探すための超音波の技術から来ています。この技術が60年後にアジアの性別のアンバランスを生み出すとはだれも思いませんでした。ある技術が将来、どんな影響を及ぼすかは、誰も分からないのです。

6つの技術「3grain」が世界を塗り替える

 私は、将来、6つのテクノロジーが地政学に影響を及ぼすと考えています。これを私はそれぞれの頭文字をとって、「3grain(スリー・グレイン)」(注:grainは「粒」の意味)と呼んでいます。

6つの技術「3grain」が世界を塗り替える スペインIEビジネススクールに学ぶビジネスのための地政学(下)

 まず、「3Dプリンティング」。この技術があれば簡単にカラシニコフ自動小銃が作れますし、知的財産権を扱う弁護士は非常に忙しくなるでしょう。

 2つ目は、「遺伝子操作技術(Genetic engineering techniques)」。赤ん坊を設計したり、エタノールを産出する藻を作り出すといったことが、この技術によってもたらされるでしょう。

 3つ目は、「ロボティクス(Robotics)」。何十万人という米国人が今や、空中にドローンというロボティクスの創造物を飛ばしています。

 4つ目は「人工知能(AI)」。最近も、囲碁で世界トップの人間が人工知能に負けたというニュースがありましたが、人工知能は急速にいろいろな分野に浸透しています。

 5つ目が「IoT(Internet of Things)」。あらゆるものがインターネットでつながり、ビッグデータを利用して簡単に答えが見つかるようになりました。しかし、これには大規模な個人情報流出など、プライバシー保護に対する大きなリスクもあります。

 最後は、「ナノテクノロジー(Nanotechnology)」です。6つの中では最も研究が遅れていると同時に、将来性が最もある分野です。原子よりも小さい単位で物事を操作することが可能になるのです。

 地政学は、より良い質問をするために必要な幅広い分野を把握する学問です。経営幹部あるいは管理職としての皆さんの責任は、部下に正しい答えを要求することではなく、部下に良い質問を投げかけることです。いたずらに将来を予測するのではなく、歴史を振り返ることによって、競争力や制約の源泉について、確固とした認識をもつことが、グローバル時代のビジネスリーダーとしてますます必要になっていることなのです。

(ライター、猪瀬 聖)

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