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映画でTOEICリスニング(国際弁護士 湯浅卓)

緊迫シーンでリスニング力の大幅アップを/ルーム

 TOEICリスニングに集中力は不可欠です。漫然と聴いていると、キーワードを聴きもらし、そこから先の流れがつかめなくなったりします。緊張感高く耳を傾けるためには、やはりシリアスな映画の張り詰めたシーンを観るといいでしょう。今回の題材は、そんな緊迫のシーンが魅力の映画「ルーム」です。

夢中で聞き取り、自然とリスニング力がアップする最高のシーン

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 英語リスニング力を上昇させるには、セリフに真剣に耳を傾けるのがいちばん。何が何でも聞き取るぞ!という姿勢で映画の名シーンを聞き取ることが、理想の上達法です。

 それにうってつけのシーンが登場する映画を紹介しましょう。ベストセラー小説を映画化した「ルーム」(Room)です。そこでの緊迫した会話シーンは、自然にリスニング力がアップすることが実感できる最高のリスニング教材です。

 同作品では、7年間におよぶ誘拐・拉致事件の被害者ジョイの役柄で、名女優ブリー・ラーソンがアカデミー主演女優賞を受賞しました。そして、信じられない大感動の名演技で、ジョイのひとり息子ジャックを演じた名子役のジェイコブ・トレンブレイ。さらには、そのジャックの祖母ナンシーをアカデミー主演女優賞ノミネート歴がある名優ジョアン・アレンが、祖父ロバートをアカデミー助演男優賞歴がある名優ウィリアム・H・メーシーが演じています。

優しさであり、悲しい知恵でもある、愛息への嘘

 映画の前半は、監禁された部屋(ルーム)のなかですべてが進行します。長い年月、部屋に閉じ込められ、一度も外へ出ることができない親子。生まれたときから部屋のなかの生活しか知らないジャックは、母親のジョイから「この部屋だけが実在する世界で、部屋の外も、テレビのなかの世界も実在しない」と教わります。原題のRoomは、この部屋を固有名詞に見立てているともいえるし、無冠詞なので「空間」という多様な意味にも解釈できます。

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 「この部屋以外どんな世界も実在しない」という嘘は、悲惨な状況下に置かれた母親の息子に対する優しさであり、それに基づく悲しい知恵でした。犯人と戦っても圧倒的な体力差で、その暴力的な性格を思い知らされるばかりのジョイは、幼い愛息ジャックにだけは手を出させまいと抵抗しますが、犯人のジョイへの暴力は加速するばかりです。

 そんななか、ジョイは、ジャックに読んであげた「モンテ・クリスト伯」の筋書からヒントを得て一計を案じます。そこに書かれた脱出方法だけが助かる道だと考えたのです。そして、ジャックに、いままで教えたことはすべて嘘で、この部屋の外にも世界があること、部屋の外に出て最初に会った人に助けを求めれば逃げられることを説明します。5歳のジャックは、幼いながらも愛する母を救うために命を賭した危険な試みを果敢に引き受けるのでした。

緊迫した会話シーンを一言も漏らさず聞き取れ

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 見どころのひとつは、部屋をひとり抜け出したジャックと、ジャックの様子から事件性を察知した女性警察官パーカーの「緊迫」の会話です。以下、その一部を抜粋しますが、映画では相当長い2人の会話が展開されます。まさに、一言も聞き逃すまいとすることで、リスニング力が自然とアップするのを実感できる最高のシーンです。

 特に演じている2人は、ともにカナダ出身です。本年5月29日に新方式が導入された後も引き続きカナダの英語発音が出てくるTOEICリスニングにおいて、素晴らしい教科書ともいえるシーンです。

(パーカー)Is there daylight in your room? …Okay, good. How many windows?
(ジャック)Zero.
(パーカー)Well, then, how does the sun come in?
(ジャック)Through skylight.
(パーカー)Skylight? Okay, excellent. So, you live in a house with a skylight?
(ジャック)No, it's not a house.
(パーカー)Okay.

 日本語訳は次のとおりです。

(パーカー)あなたの部屋に日光は差し込むの? そうなのね、いいわ。窓はいくつあるの?
(ジャック)ゼロ。
(パーカー)じゃあ、日差しはどうやって差し込むの?
(ジャック)天窓から。
(パーカー)天窓? わかった、素晴らしいわ。そうすると、天窓付きの家に住んでいるのね。
(ジャック)ううん、家じゃない。
(パーカー)わかったわ。

見どころを超えた見どころ

 聞き取りが行われているのはパトカーの後部座席で、運転席にいる男性警察官もときどき聞き耳を立てています。

 ジャックは、ここ何日間かで初めて母から教えられた事柄や単語を思い出しながら必死に伝えようとしますが、その説明はまったく要領を得ません。男性警察官は、あまりにも状況が奇妙なのはジャックが疲れているせいだろうと判断し、少し休ませてから再聴取するべきだと示唆しますが、パーカーはそうしたアドバイスを無視して、ジャックへの質問を続けます。その言動の端々から、ジャックが言う「Ma(マ)=ママ」が一刻を争う危険な状況にあることを直観したからです。

(男性警察官)Yeah, it's a needle in a haystack.
(パーカー)Okay, listen to me. What made you jump out the truck, Jack?
(ジャック)Ma said in my head.
(パーカー)Okay, what exactly did she say?
(ジャック)Jump when it's slows down, but I couldn't!
(パーカー)All right. So, what did you do?
(ジャック)Third time…

 日本語訳は次のとおりです。

(男性警官)どうも無駄骨だな、そんな情報じゃ、前途多難だよ。
(女性警官)いい、私の言うことをよく聞いて答えるのよ。ジャック、なぜ、あなたはトラックから飛び降りたの?
(ジャック)ママが、僕の頭のなかでそう言ったから。
(女性警官)わかった。正確には、ママはあなたに何て言ったの?
(ジャック)ジャンプするのよ、トラックがスピードを落としたらって。でも僕、できなかったんだ!
(女性警官)大丈夫よ。それで、あなたはどうしたの?
(ジャック)3度目に……

 トラックの上で、生まれて初めて大きな空を見たジャックの驚きの表情は、あらゆる観客の心を感動の渦に巻き込むでしょう。見どころを超えた見どころです。また、名優アマンダ・ブルーゲル演じる、超がつくほどの腕利き警察官パーカーとジャックとのやりとりは、筆者が「パーカーを主役にしたスピン・オフ警察ドラマを見たい」と思ったほどの名シーンとなっており、最高の見ごたえです。

【今週の鉄則】リスニングでは子音の聞き取りが重要

 上記に出てきたジャックの名セリフ「Ma said in my head.(ママが、僕の頭のなかでそう言ったから)」の母音部分だけをカタカナ表記に置き換えてみましょう。

Ma said in my head.
(Mア・SエD・ィN・Mアィ・HエD)

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 子音の数が母音の数よりずっと多いことから、「リスニングでは、子音を聞き取ることがいかに重要か」がわかります。なかでも「~in my~」にあたる箇所の連続子音NMは、いずれも日本語にはない音です。これが聞き取れるようになると、リスニング力は飛躍的に向上します。

 また、この名セリフは、親子愛を象徴する最高の聞きどころです。座席に腰掛け、自分自身の行動を思い出しながら、つぶやくように的確な発音が発せられます。かけがえのない親子愛が共有されているジョイとジャックの心という「空間(ルーム)」の奥行きを実感しましょう。熱い感動とともに、事実関係ひとつひとつを聞き取ろうとするリスニング力を身に付けるための素晴らしい教材です。

【映画情報】
作品名:ルーム
公開:公開中
配給:ギャガ
監督:レニー・アブラハムソン
脚本・原作:エマ・ドナヒュー
出演:ブリー・ラーソン/ジェイコブ・トレンブレイ他

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緊迫シーンでリスニング力の大幅アップを/ルーム

湯浅卓(ゆあさ・たかし)
国際弁護士

 1955年11月24日東京生まれ。港区立白金小学校、麻布中学・高校を経て、東京大学法学部卒業後、UCLA、コロンビア及びハーバードの各法律大学院に学ぶ。国際弁護士としての専門分野はウォール街の銀行法及びIT法の2つだが、ウォール街でのワシントン担当の実務も行う。ワシントンでは複数年にわたり、現地のアメリカ人法律大学院生2年生、3年生の「国際比較法」(4単位)を担当し、英語で授業や試験、採点を行ったこともある。書籍や論稿、並びに政府や地方公共団体、シンクタンクなどでの講演も多数。

 TOEICは、アメリカの名門、Educational Testing Service(ETS)の登録商標です。本連載では、『TOEICテスト新公式問題集』(国際ビジネスコミュニケーション協会)を推奨します。

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