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龍馬の参謀力

歴史でひもとく龍馬の目的指向と「課題設定力」(西村克己)

 将来が見えない外部環境が激変する時代には、「手段指向」では間違った意思決定をします。同じ土佐藩の武市半平太(土佐勤王党の盟主)が、藩と幕府の形にこだわった形式主義でした。土佐藩が尊王攘夷から開国主義に転換した方針で、英雄が一夜にして悪役となり、切腹に追い込まれました。一方、坂本龍馬は日本を諸外国の属国とさせない目的遂行のために、土佐藩を脱藩しました。そして最も力があった薩摩藩と長州藩を結びつける薩長同盟の立役者となり、国内の結束力を高めることで、日本が属国になる危機から救ったのです。

剣術から砲術へ、人脈が変えた龍馬の世界観

歴史でひもとく龍馬の目的指向と「課題設定力」(西村克己)

 龍馬は19才で土佐の日根野道場で「小栗流免許皆伝」を、そして24才で千葉定吉道場の「北辰一刀流免許皆伝」を得ています。剣を捨てなかったことで、龍馬の新しい人脈が開かれます。千葉定吉道場の塾頭、千葉重太郎の信頼を得られなければ、勝海舟との出会いの機会はありませんでした。重太郎が越前福井藩主・松平春嶽を龍馬に紹介し、春嶽の紹介状を持って勝海舟に会いに行っています。

 龍馬は19才の時、ペリーの黒船来航を自分の目で見て砲術の時代であることを確信し、砲術家・佐久間象山の弟子、徳弘孝蔵の門人になりました。龍馬が「目的思考」でなく、手段思考の人間だとしたら、剣術一筋に生きていたことでしょう。

 1862年1月15日、長州藩の久坂玄瑞に会った龍馬は、藩の尺度ではなく、日本の尺度で考える重要性を痛感します。そして3月24日に土佐藩を脱藩、勝海舟に会うのが同年12月9日です。2人との出会いにより、龍馬の世界観は大きく変わります。

「過去の怨念は水に流して」国益のために薩長を説得

 龍馬の大きな功績として、薩長同盟と船中八策による大政奉還の提案が挙げられます。薩長同盟は、一夜にして成ったわけではありません。そもそも薩摩藩と長州藩は犬猿の仲でした。1864年の第一次幕長戦争(第一次長州征伐)で、幕府側の参謀は薩摩藩の西郷隆盛だったからです。

 龍馬は不可能と思われた薩長同盟を、「過去の怨念は水に流して」と諭し、同盟の重要性を双方に説きました。また、まず経済同盟から始めることを提案しています。これにより、武器不足で悩んでいた長州藩は、薩摩藩の名義で武器を調達できるようになりました。薩摩藩は、長州藩の米を潤沢に手に入れます。

 国内で内乱を起こしていては、外国勢の思うつぼです。日本を外国から守るためには、日本が団結して、外国勢と対等に戦う必要性を龍馬は感じていました。国益のために薩長同盟が不可欠だったのです。目的達成のための最適な手段を提案した龍馬でした。

目的達成のために最適な手段を熟考する

歴史でひもとく龍馬の目的指向と「課題設定力」(西村克己)

 龍馬が目的思考だったといえる状況として、苦労をいとわないすばやい行動が挙げられます。まず目的達成のために何が必要か、最適な手段を考えます。手段が実現不可能だとしても、どうやったら実現可能になるかを、あきらめないで考えます。

 龍馬の言葉に、「窮地は知恵で救える」と「失敗はない、試練だ」があります。目的達成のための前向きな姿勢が、これらからうかがい知れます。

 脱藩できなかった武市半平太と龍馬の違いは、半平太が形式主義で藩と幕府の形にこだわったのに対し、龍馬は形式に問われない目的思考でした。藩主山内容堂により土佐勤王党約200人がほぼ全員捕らえられ、半平太は切腹に追い込まれています。龍馬が脱藩していなければ、同じように切腹か斬首に追い込まれていたでしょう。

「龍馬の参謀力」は水曜更新です。次回は5月25日の予定です。

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歴史でひもとく龍馬の目的指向と「課題設定力」(西村克己)

西村 克己(にしむら・かつみ)
ナレッジクリエイト代表取締役、日経ビジネススクール講師

 1982年東京工業大学大学院経営工学科修了。富士フイルムを経て、90年に日本総合研究所に移り、研究事業本部主任研究員として経営コンサルティング、社員研修会などを多数手がける。2003年から芝浦工業大学大学院教授を経て08年客員教授。現在、昭和ホールディングス社外取締役、株式会社ナレッジクリエイト代表取締役。専門分野は、経営戦略、戦略思考、プロジェクトマネジメント、ロジカルシンキングなど。
 著書は『持たないで儲ける会社』(講談社+α新書)、『1分間ドラッカー』『1分間コトラー』『1分間ジャック・ウェルチ』(以上、SBクリエイティブ)、『ゼロから始めるプロジェクトマネジメント大全』(大和書房)『問題解決フレームワーク44』『戦略決定フレームワーク45』(学研パブリッシング)、『ポーター博士の「競争戦略」の授業』(かんき出版)など120冊を超える。

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