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国債だけでなく不動産市場にも価格ターゲットが必要

早稲田大学ビジネススクール川口有一郎教授の『ニューノーマル』―不動産市場を通して読む―(2)

 さる9月21日、金融政策の目標が通貨の量から金利の曲線(イールドカーブ:Yield Curve)へと変更された。日銀は10年物の長期金利をゼロ%「程度」と定めた。投資家の自由競争はこの僅かな幅の中に制限される。長期国債市場はこうした日銀の介入と自由競争とを組み合わせた「混合」資本主義体制のもとに置かれることになった。また、国債の価格は金利によって決まるので、金利を指定することはその価格を管理することにほかならない。上場投資信託(ETF)および不動産投資信託(J-REIT)の日銀買入れも長期化している。これらの市場でも官製相場化が進み、その副作用が懸念されるようになった。株価および不動産価格の安定を図ることは国民経済の健全な発展に資する。今回、日銀は混合資本主義的な政策に舵を切ったのだから、これらの価格のターゲットも公表する必要があろう。

QEは人為的に資産価格を上昇させる政策

国債だけでなく不動産市場にも価格ターゲットが必要

 2013年春以来の3年強に及ぶ社会実験でわかったことは、量的緩和策(QE : Quantitative Easing)は実体経済におけるマネーサプライや銀行貸出の増加に結びつかず、資産価格を上昇させるのみであるということだ。

 その理由は次の通りだ。銀行は日銀当座預金を公衆(企業や家計など)に直接貸し出すことができない。QEにより銀行が保有する日銀の当座預金が増えても、この制約があるから、公衆への貸出増加にはつながらない。このことを知りながら、日銀は当座預金を驚くほど(5倍強)増やした。無制限のQEを導入すれば公衆の予想インフレ率は上昇する。これが当時の日銀の仮説であったがこの実験により棄却された。

 また、日銀から供給される通貨が増えれば世の中に出回るマネーが機械的に増える。これも日銀の仮説であったがこれも棄却された。世の中のマネーを増加させる主体は銀行と公衆である。日銀が供給する通貨はこの蚊帳の外にある。QEによって機械的に世の中にお金が回ることはない。QEは労働者の賃金や企業の設備投資に向かうマネーを創造するわけではない。QEのトリクルダウン効果も画餅にすぎない。

 人為的に資産価格を上昇させる。これこそがこの実験で得られたQEの実際の効果である。大量買入れにより10年国債利回りが大幅に低下した。資金は国債以外の資産にシフトした。株価指数や不動産価格は金融危機前の水準に迫る勢いで上昇した。ETFとJ-REITの買入が始まってから現在までに、株価指数(TOPIX)は54%、J-REIT指数は74%上昇した。これらの上昇は資産効果を通じて個人消費を刺激した。このようにQEは資産価格の上昇を通じて実体経済に影響を及ぼそうとする政策である。

 つまり、日銀の新たなQEでは資産価格の誘導が主でありそれに伴う通貨量の増大は従である。今回導入された「長期金利操作付きQE」によりこれが明確になった。これに伴って10年物国債の価格ターゲットが公表された。

資産価格ターゲットの必要性

 日銀が国債価格ターゲットを導入したことは正しい。いまや国債市場は官製相場となっている。日銀は人為的に価格を誘導するのだからそのターゲットがあるに違いない。これが公衆に明確にされなければ政策の不確実性が増大する。政策の不確実性が大きくなるとQEの狙いとは反対に企業の設備投資などが抑制される(これを「不確実性の罠」という)。また、QEにおいては中央銀行の信頼性が不可欠である。そこには、中央銀行が何を目標にしているのかを公表して銀行および公衆と共有することが含まれる。

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