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日本の不動産価格のインフレーション ―アメリカが主導権を握っている―

早稲田大学ビジネススクール川口有一郎教授の『ニューノーマル』―不動産市場を通して読む―(1)

1 不動産価格インフレ

 ご存知の方もいるかと思うが、2013年7月頃から日本では不動産価格が高騰している。だが今回の不動産市場のブームは過去の不動産バブルとは異なる。図1.1に過去30年間の東証不動産業種の株価指数の推移を示す。このグラフから次のことが分かる。この間に3回の不動産市場のブームがあったが、今回の不動産株価のピークは過去2回のバブルの頂点に比べて約8割程度と低い。

図1.1 過去30年間における不動産価格の推移

出所:Quick Astra-managerを用いて筆者作成 出所:Quick Astra-managerを用いて筆者作成

 また、今回の不動産株価の上昇は中央銀行によるリフレーション政策のタイミングと一致している。つまり、米連邦準備理事会(FRB)の3度目の量的緩和が発表された12年9月から日銀による異次元の金融緩和がアナウンスされた13年4月にかけて不動産株価が急上昇した。

 これに対して、前回の不動産バブルでは、その発生の時期と金融政策のタイミングの関係が明確ではない。つまり、日銀は、2001年3月から2006年3月の間、最初の金融緩和策・量的緩和策を実施した。この金融政策のタイミングと不動産バブルの発生時点(05年7月)および終焉の時点(07年5月)は一致していない。

 ところで、実物の不動産価格は上場不動産株価に対して約1年~1年半の遅れをもって動くことが知られている。この関係から上記の2つのこと――価格の水準が前回のピークにくらべて明らかに低いこと、また今回の価格上昇は日銀およびFRBのリフレ政策によるものであること――は、実物不動産市場についてもいえることである。

 今回の不動産価格の上昇はバブルによるものではなくインフレである。これに対する反証は次である。例えば、不動産投資信託が保有するビルの賃料はこの期間ほとんど上昇していないのに、その株価は1.7倍になった。また、例えば、東京銀座のビルの賃料は約3割程度しか上昇していないのに対して、その価格は約2倍と賃料の伸びを大きく上回った。バブルとは資産価格のうち「経済の実体」から離れて上昇した部分をいう。ここでの経済の実体を賃料とするならば今回の不動産市場のブームはバブルと言える。

 この反証に対する反証は次である。不動産の賃料は硬直的であるのでその動きは価格に比べて緩慢である。また、この期間には不動産投資のベースとなる10年国債利回りは劇的に下がった。今ではマイナスの領域にまで下落している。今回の不動産価格の上昇は金利の下落でほぼ説明される。

 アベノミクス以降の不動産市場におけるマクロ的な過熱感の原因は、リフレ策――不動産市場に出回るお金が増えたこと、金利が劇的に低下したこと――による価格上昇である。なお、これはミクロ的には局地的に例外があることを否定するものではない。

2 不動産価格インフレのメカニズム

 アベノミクスは金融に依存した経済政策のパッケージである。アベノミクスの3本の矢――第1の矢は大胆な金融緩和政策、第2の矢は機動的な財政政策、および第3の矢は民間投資を喚起する成長戦略――のうち最も重要な矢は、次の理由で、第1の矢とされた。

 財政支出を増加させると金利が上昇するのでこれを防ぐためには大胆な金融緩和が必要であること。また、この金融緩和策は名目金利の上昇を抑制しつつ、予想インフレ率を引き下げるので、これらがあいまって企業が設備投資に積極的になる、というロジックである。つまり、実体経済を回復させるための必要条件は貨幣経済であると考えたのである。

 この信念は「貨幣数量説」と呼ばれている。これは、貨幣量と信用創造がn倍になったら物価水準もn倍になる、というシンプルな信仰に基づいている。一般的な物価水準の持続的な下落がデフレであるから、デフレから脱却するには貨幣量と信用創造を増やせばよい。つまり、世の中に出回るお金が増えるとインフレーションになるという信念である。

 現実はどうか? 世の中のお金(マネーストック)は1141兆5546億円(13年3月)から1263兆8817億円(16年8月)と10.7%伸びた。これによって、上記の信念によれば、一般物価の上昇率はプラス2%に達する予定であった。しかし、15年度のインフレ率(コアCPI)は0%、また今年の春先からマイナスに落ち込んだ。

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