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最強のロジカルシンキング

もしあのとき妻に会っていなければ、もっと幸せに?(堀 公俊)

第18回 「仮に」 ピンポイント爆撃で攻める

人生は一体何で決まるのか?

 私が気に入っているテレビ番組の一つに、NHKの「ファミリーヒストリー」があります。著名人の家族の歴史を、本人に代わって追いかけていくドキュメンタリー番組です。

 初回から欠かさず見ていると、どの一家にも栄枯盛衰のドラマがあり、順風満帆であるほうが珍しいことが分かります。それと同時に、自ら切り開いたつもりの人生が、実は家族の長い歴史の一コマに過ぎす、家族の絆や運命に導かれていることに気づきます。

 あわせて、偶然が人生を大きく左右していることに驚かされます。たとえば、ある方の祖先は、先の戦争が始まるにあたり、海外から引き揚げる船に乗りそびれて、逆に命拾いしました。また、ある方の祖先は、姉の代理で旅行に参加したことで、後に夫となる人と出会えました。

 もし、あのときに帰国船に乗ることができたなら。もし、姉が予定通りにその男性と会っていたなら……。当然、その著名人はこの世に存在せず、私たちもその方の作品やパフォーマンスは楽しめません。それがまた我々の人生に影響を与えます。そう考えると、いかに人生が運や巡り合わせに翻弄される危ういものか、空恐ろしい気すらします。

 そう言えば私だって、もしあのときに友人がロックコンサートのチケットを譲ってくれなかったら。もしあのときに、最初に誘った女性がOKしてくれていたら。今の妻とは結婚していなかったかもしれません。仮にそうなら、今頃どんな人生を送っていることか……。ウ~ム、やはり歴史にイフ(if)は禁物かもしれません。

仮定の話で発想を広げる

 今回取り上げたいフレーズは「もし」(仮に、万が一)です。仮定をおいて考える思考法です。

 仮の話なら、現実から解き放たれて自由に発想できます。思考の制限を取り払うのに「もし」は威力を発揮します。状況の仮定と立場の仮定の大きく2つのパターンがあります。

【NG】 もうこれ以上私にできることはない。
【OK】 もし、何でもできるとしたら、何をするだろうか?(状況)
【OK】 もし、私が社長だったら、何をするだろうか?(立場)

 所詮、空想の話ですから、内容に責任を持つ必要はありません。会議で発言が出にくいときに、ハードルを下げるのに使うと効果的です。

【NG】 本件についてあなたはどう考えますか?
【OK】 あくまでも仮の話として、もしあなたが本件を決めるとしたら、どうしますか?

 仮の話だといっても、少なからずホンネが透けて見えます。「なぜ?」「その理由は?」と質問を繰り出していけば真意が見えてくるようになります。

 ちなみに、娘が小さいときにこの手を使って話を引き出していたら、そのうち「仮定の話にはお答えできません」と政治家のようになってしまいました。やり過ぎにご注意を。

仮説→検証のサイクルを回す

 絵空事だけ考えていても論理になりません。仮定の話は、本当に成り立つかどうか調べてこそロジカルシンキングです。いわゆる仮説→検証のサイクルを回すのです。

 間違いのない判断をするには、徹底的にヌケモレなく根拠を検討する必要があります。ところが、そうすると時間がかかってしまい、急ぎの場合に間に合いません。

 だったら、仮説という名の予断をおいて、その検証に必要なところだけ調べるというのはどうでしょうか。いわば、前者が絨毯(じゅうたん)爆撃なら、後者はピンポイント爆撃です。考える対象を絞れば手間も時間も省けるはずです。

 実際、救急医療のドクターも後者で問題解決にあたります。一刻を争うときに、いろんな検査をしたり、詳しい病歴を調べたりする時間がありません。限られた情報と直観を元に、「大動脈瘤破裂かもしれない」といった仮説をおき、それが合っているかどうかの検査をします。そうしないと間に合わないのです。

 物事を考える時もまったく同じです。少ない時間で効率的に筋道をつくりだすには、仮説を使うのが賢いやり方です。

【OK】 もしかして製品ではなく価格に問題があるのではないか。もし、そうだとしたら、○○を△△したときに□□となるはずだから……。

よい仮説をつくるための秘訣

 ただし、これが功を奏するかどうかは、仮説の良し悪しにかかっています。「ピントはずれの仮説を立てては崩される」の連続では、かえって手間がかかってしまうからです。いっそのこと絨毯爆撃のほうが早いかもしれません。

【NG】 とりあえず○○かな? いや違った。だったら△△? これも違った……。

 ところが、よい仮説をつくる決定的な方法がありません。目の前にある事象から「○○に違いない!」と“ひらめく“しかありません。最後は直観力や洞察力、つまりセンスがモノを言います。

 そのためには、徹底的に調べようと思わず、全体をザックリつかんで問題を俯瞰(ふかん)的に見ることです。調べすぎるとかえって本質が見えづらくなります。さらに、個々のデータではなく、底に流れるトレンドやパターンを見つけ出すことが、よい仮説づくりに役立ちます。

 また、人づてに聞いた話、統計的に処理されたデータ、マスメディアに流れている情報では直観はうまく働きません。お客様の振る舞いや生の声、現場で起こった出来事や事件、些細なもめ事や矛盾といったライブ感のある情報に直に触れることです。「現場」「現物」「現実」に直に接して、心に引っかかったことをヒントにするのです。

人間は都合よく考える癖がある

 検証する時に一つ注意しなければならない点があります。

 いったん仮説をつくると、都合のよい情報にばかり目がいきがちになります。否定する情報があったとしても、「大したことはない」「これは例外だ」と軽視してしまいます。下手をすると、よほどのことがない限り、すべての仮説が肯定されてしまいます。

 血液型による性格診断が典型です。「この人はB型かな?」と仮説をおいたら、「マイペース」「楽天的」といったB型的なところばかり目につきます。「慎重」「几帳面」といったA型的な性格があったとしても目に入りません。

 それで本当に相手がB型だったら「やっぱり!」となるわけです。もちろん、血液型診断は科学的根拠がどこにもなく、世界中で信じているのは日本だけです。

 仮説をつくるのは直観やセンスで一向に構いません。しかしながら、それを検証するのは論理的かつ客観的でなければなりません。そのためにこそロジカルシンキングがあります。

 「本当にそうなのか?」「他の仮説が考えられないか?」と疑う気持ちを持つことが大切です。血液型診断のようなトンデモない結論を導かないよう重々注意をするようにしましょう。

【OK】 仮に、仮説に合わないところがあるとしたら、どこだろうか? もし、もっと説明がつきやすい仮説があるとしたら、どんなものだろうか?

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は8月25日の予定です。

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もしあのとき妻に会っていなければ、もっと幸せに?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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