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最強のロジカルシンキング

対立する日本と欧米のビジネス思考法、どちらが正しい?(堀 公俊)

第14回 「そもそも」 マクロからミクロを考える

こんな机上の空論は意味がない!

 日本と米国で思考形式がまるで違うことを痛感した一件があります。あるグローバル企業で、日米の幹部が東京に集まって、来年度の戦略と計画への落とし込みを議論することになりました。

 まずは、会社のミッション・ビジョンから始まり、中期方針・戦略のレビューがあり、来年度の目標を共有していきます。そこから、各部門での戦略・方針が議論され、方策のすり合わせをして何とか形が見えてきました。ところが突如「ちゃぶ台返し」が起こったのです。

 造反ののろしを上げたのは、数人の日本人幹部です。「こんな机上の空論をやっても意味がない。まずは現場の実情をしっかりと把握し、地に足のついた議論をすべきだ!」と言うのです。それに対して米国人からは「何をばかなことを言っているんだ。ビジョンを現場に落とし込むのが我々の仕事ではないか」と反論が。望ましい議論の進め方が180度違っていたわけです。

 ザックリ言えば、欧米のビジネスパーソンの間では「抽象的なものから具体的なものへ」と物事を考えるのが一般的です。「そもそも」と、物事を本質や根源から考えようとするのです。またそれが賢明な人のやり方だとされています。

 ところが、日本では逆。どちらかと言えば、「具体的なものから抽象的なものへ」考える人が幅を効かせています。「今は」「ここでは」と細部から積み上げ、全体として言わんとしていることを見つけようとします。

2つの思考形式を組み合わせて考える

 もちろん、どちらか片方が正しいという話ではありません。両方を巧みに組み合わせて考えるのがベストです。

 実際、このときも「そこまで言うなら」という話になり、逆パターンでやってみたところ、意外な発見がいくつかあり、米国人も「なるほど」と納得。結局、両方の考え方をつきあわせることになり、より一層議論が深まったのでした。

 思考ツールで言えば、米国生まれである、ツリー状に情報を分解していく方法にも、日本で生まれた、カードに情報を書いてグルーピングしている方法にも、それぞれ良さがあるわけです。

 おそらく本稿をお読みの方々は、後者が得意な方が多いと思います。だったら、あえて前者の思考を鍛えておきましょう。欧米生まれのロジカルシンキングでは大切にされる思考法です。覚えたいフレーズは「そもそも」(本来は、元々は)です。

【NG】 とりあえず、今起こっていることから考えれば……。

【OK】 そもそも、私は今何をすべきなのだろうか。

自分が舵取りできる論点を設定する

 「そもそも」で一番に考えてほしいのが「論点」です。

【OK】 そもそも、今何を考える(検討する、議論する)べきなんだろうか?

 今までお話をしていませんでしたが、ロジカルシンキングは論点が決まった後で動き出すものです。論点、すなわち考えるべきテーマや扱う問題は、自分で決めるしかありません。残念ながら、ロジカルシンキングは論点を教えてくれません。

 身の回りに起こっていることや森羅万象の中から、何を論点として取り出すかは、本人の興味や問題意識にかかっています。論点を設定するセンスが求められるわけです。

 たとえば、考えても答えがでない論点は不適当だと言わざるをえません。

 よく「過去と他人は変えられない」と言います。過去、他人、偶然、運命、環境といった、自分が舵(かじ)取りできないことを考えても仕方ありません。できれば、未来や自分といった、自分が舵取りできることを論点に設定しましょう。

【OK】 そもそも、この論点は、自分で舵取りできることなのだろうか?

 自分が舵取りできても、あまりさまつなことも、考える時間がもったいないです。できれば、考えるだけの価値や意味のある論点を設定したいものです。

【OK】 そもそも、この論点を考えると、どんないいことがあるのだろうか?

そもそも論に引き戻すタイミングがある

 次に「そもそも」を考えてほしいのが、目的です。

 会議でもよくあります。細かい話を議論しているうちに、何のための話をしているのか見失ってしまうことが。どこかで「そもそも論」に引き戻さないと、どんどんさまつな話に陥ってしまいます。

【NG】 だから、そうじゃなくて、○○だと言っているじゃないか……。

【OK】 それは分かるのですが、そもそも、私たちは何を目指しているのでしょうか?

 このときはタイミングが重要です。機が熟していないときにやっても、「そんなことは分かっている」と蹴られてしまいます。考えに考えて何が何だかよく分からなくなった。そういうタイミングでそもそも論を持ち出すからこそ、目からウロコとなります。

 あるいは、前提(与件)の確認も大切です。話し合いでなぜ意見が食い違うかといえば、かなりの部分が前提のズレです。当人が当たり前だと思って伝えていないことがあり、それが相手に伝わっていないのです。必要に応じてそもそも論をぶつけてみましょう。

【OK】 そもそも、それは事実ですか、意見ですか? 意見だとしたら誰の?

【OK】 そもそも、長期か短期か、どんなスパンで考えた話ですか?

あいまいな言葉は定義を確認する

 もう一つ、「そもそも」で考えてほしいことがあります。使っている言葉の意味です。

 一例を挙げると、「ウチの会社は戦略がない」という議論をよくしますが、人によって戦略の意味が違っていることがよくあります。長期的な目標(ビジョン)だったり、起死回生の一手だったり、はたまた大胆な構造改革だったり……。

 私たち日本人は言葉の意味を明らかにせず、あうんの呼吸やその場の空気でニュアンスを伝えようとします。それが悪いわけではありませんが、ロジカルシンキングという点では感心しません。

 私たちは、言葉で物事を考え、言葉を使ってコミュニケーションをします。言葉の意味があいまいだったり、食い違っていたりすると思考が深まっていきません。

 特に、概念が広い言葉(例:思い)、流行り言葉(例:グローバル化)、一般的なビジネス用語(例:戦略)、お役所言葉(例:検討する)、程度を表す言葉(例:大きい)などは要注意です。案外、同じ言葉をまったく違った意味で使っているかもしれず、「そもそも」で定義を確認するようにしましょう。

【OK】 そもそも、○○という言葉はどういう意味で使っていますか? たとえば?

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は7月21日の予定です。

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対立する日本と欧米のビジネス思考法、どちらが正しい?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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