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最強のロジカルシンキング

論理思考は、相手がロジカルでなければ無意味なのか?(堀 公俊)

第22回 「たしかに」 正しいことは正しい

相手を認めて懐に入る

 セミナーや講演でロジカルシンキングの話をしていると、よく尋ねられる質問があります。「いくら自分がロジカルであっても、相手がロジカルでなかったら意味がないのではないでしょうか?」というものです。

 たしかに、おっしゃることはごもっとも。ロジカルでない人に合理的に説明しても分かってもらえません。「理屈なんかどうでもいい」と言われたら、話のしようがありません。

 とはいえ、まったく手がないわけではありません。

 ロジカルでない人の話は、とても理不尽なことのように聞こえます。ところが、相手も同じように感じているはず。論理で攻めれば攻めるほど、互いの距離は離れるばかりです。

 そんな不毛の議論をするよりは、少しでも相手のことを認めるほうが得策です。まずは相手の懐に入らないと、ロジックもへったくれもありません。

 どんなにロジカルでない人の話であっても、筋が何もないわけではありません。どんな理不尽に思える話にも、多少なりともうなずけるところがあります。それをしっかりと認めてあげるのです。

 「たしかに、○○という点は、山田さんのおっしゃる通りだと思います。ところが……」

 え、認めるべき話が何もなかったら、どうするかって? とりあえず、何も筋道がないことを認めてあげましょう。

 「もちろん、理屈じゃないことは百も承知です。だからといって……」

是々非々で臨むのがロジカルな態度

 根拠が本当に事実に基づいているか、原理がいついかなる場合にも通用するか、細かいことを言い出したらいくらでも論理の穴が見つかります。ヌケモレなく考えるといっても、すべてのことを調べるわけにはいかず、自ずと限界があります。

 いちいち相手の言うことにツッコミを入れていたら、「要は、私が気に入らないんだ」とばかり、かえってロジカルでないと思われてしまいます。まさにロジカルシンキングのジレンマです。

 筋道として認めるところは認め、相手の主張の同意できるところは同意する。何でもかんでも否定するのではなく、是々非々で臨むのが本当にロジカルな人の態度です。

 そのために使いたいフレーズが「たしかに」(いかにも、もちろん、当然)です。どこを認めて、どこを認めないかハッキリさせるときに使います。

【NG】 あなたの言うことは、まった筋が通っていない。
【OK】 たしかに、○○の点は、あなたの言う通りです。一方……。
【OK】 もちろん、○○という話は、私もよく分かっています。とはいえ……。

議論の相手は問題解決のパートナー

 時々勘違いする人がいるのですが、日常での議論や交渉と、論理思考の訓練としてやるディベートは似て非なるものです。議論とは、互いに納得のいく問題解決のアイデアを見つけ出すためのものです。ディベートのように相手を叩き潰すことが目的ではありません。

 議論や交渉においては、相手は敵ではありません。問題解決のパートナーです。相手を尊重することがよりよい結論を出すためのベースとなります。

 それには、相手の主張に共感したり、相手の考えを受け入れたりすることが欠かせません。そうすることで、自分の主張も受け入れてもらいやすくなります。

【OK】 たしかに、あなたが言うように○○だと思います。さらに、私が言いたいのは……。

 第一、いくら相手を論理的に説得しても、やる気にならなかったら期待通りに動いてくれません。「負けた」「してやられた」という感情を持たれたら、後でやっかいなことになります。

 対人関係においては、論理をつきつめることと、感情に配慮することは、常に両輪です。まさに夏目漱石が名作『草枕』の冒頭で述べた、「知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。」(青空文庫)です。

予想されるツッコミに備える

 「たしかに」は、もう一つ違った使い方ができます。

 一つ例を挙げましょう。会社の会議で「世の中にない斬新な商品を開発しよう」なんて訴えると、必ず「当たり外れが大きく、リスクが高いのではないか」という反論が飛んできます。それがあらかじめ分かっているなら、最初から予防線を張っておけばよいのです。

【OK】 たしかに、斬新な商品はリスクが高いという側面を持っています。しかしながら、今、ウチの会社の実情を考えれば……。

 あるいは、結論ではなく、思考プロセスに対して指摘を受けることがあります。「○○の点はよく考えたのか?」「△△という情報を加味した上での判断なのか?」という検討の過程に対するツッコミです。これも、あらかじめつぶしておけば、手間が省けます。

【OK】 もちろん、判断に際してはリスクも考慮する必要があります。どうやって顧客にアピールするかも重要課題です。それらを総合的に勘案してもなお……。

 「わざわざそんなことをしなくても、ツッコまれた時点で反論すればよい」という意見もあると思います。ただ、指摘されてからアドリブで答えるのと、あらかじめ用意して答えるのとでは、相手に与える印象が違います。後者のほうが、いろんな角度からロジカルに検討してきたことがアピールでき、結論への信頼度が増します。

予防線の張り過ぎに注意する

 ただし、一つだけ注意してください。予防線を張り過ぎると、自分の主張よりも反論の部分が長くなって、本末転倒になってしまいます。特に、主張よりも先に反論への備えがくると、言い訳がましく聞こえてしまいます。

【NG】 たしかに、○○という反論もありえます。それに対しては△△です。もちろん、そもそも△△でいいのかという問題もあります。当然、□□も考慮すべきです。ところが……。

 中には、予防線にも反論にもなっておらず、単に知識をひけらかすために「たしかに」を使う人もいます。「だから?」「要するに?」とツッコミを入れたくなります。こんな風にならないよう、ポイントを絞って「たしかに」を使うようにしましょう。

【NG】 たしかに、日本は少子高齢化に備えなければいけません。もちろん、環境問題も重要なテーマです。当然、グローバル化への対応も求められ・・・

 最後に補足です。もちろん、「たしかに」といっても、世の中に本当に確実なことはありません。「もちろん」にしても、当然、人によって自明なことは違います。あくまでも実用上で困らない程度にとご理解ください。

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は9月29日の予定です。

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論理思考は、相手がロジカルでなければ無意味なのか?(堀 公俊)

堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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