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最強のロジカルシンキング

謝罪会見「トップとして責任を取るのか」への模範解答は?(堀 公俊)

第17回 「あくまでも」 限定をつけると自由になれる

トップとして責任を取るおつもりですか?

 がん首をそろえ、数秒間「申し訳ございません」と頭を深々と下げる謝罪会見。すっかりテレビではおなじみの風景となりました。

 いろんな会見を見ていると、受け答えがうまい人と下手な人がハッキリ分かります。典型的なのが、「今回の件でトップとして責任を取るおつもりですか?」といった、答えられない質問を受けたときの応答です。

 最悪は、「お答えできません」(ノーコメント)です。本当に答えられないのでしょうが、これでは、門をピシャリと閉じてしまうのと変わりません。「不誠実な人」という印象を与え、火に油を注ぐことになりかねません。

 上手なのは、辞めるとも辞めないとも、検討するともしないとも答えず、「たしかに、それも考えなければいけないことの一つです」と一般論で返すことです。これなら、言質をとられることもありません。

 ただし、相手によっては「そつなくかわした」という印象をもたれてしまうかもしれません。そうならないためには、「あくまでも、一般論でのお答えでよければ」を頭につけるようにします。限定つきの回答であることをあらかじめ知らせておくのです。

 さらに、「一般論ではなく個人としてのお考えを」とツッコまれたら、「あくまでも、現段階でお答えできるのは、これだけです」と、やはり条件を明示した上で返すようにします。

「あくまでも」で限定をつける

 ロジカルシンキングでは、誰もが認める正しい筋を探究していきます。だからといって、いきなり正解が見つかるわけではありません。いろんな考え方や可能性のある筋道をたくさん出して、その中からまっとうな筋道を探していきます。

 結論に至る過程では、個人的なモノの見方、筋が怪しい考え方、憶測やあてずっぽうなども材料の一つとなります。そういった考えを自由に出し合うからこそ、最適な筋道が見つかります。

 それらをいちいち、「論理的でない」「客観的でない」「根拠が怪しい」とつぶしていたのでは、考えが広がりません。いわばこれらは、正解を見つけ出すためのアシスト役。一つひとつが論理的に怪しくても、最後に一本確かな筋道が見つかればよいのです。

 そのためには、自信のない考えは、「あくまでも」(限っていえば、絞っていえば)と限定条件つきで提示するのが得策です。

【OK】 あくまでも、一人の課長としての見解ですが……

【OK】 あくまでも、仮(想定・推定)の話ですが……

【OK】 あくまでも、私の経験から言えるのは……

制限をおけば考えやすくなる

 限定をつけるメリットは大きく2つあります。一つは、制限を置けば考えやすくなることです。意外に思われるかもしれませんが、適度に制限があるほうが、発想がしやすくなります。

 たとえば、「幸せになるには?」と問われても、あまり考える範囲が広すぎて途方に暮れてしまいます。かたや、「仕事の人間関係の上で一瞬幸せを感じるには?」なら、すぐにいくつか答えが思いつきます。

 スポーツと同様、ルールや場所の制約があるからこそ、その中で自由に楽しめるのです。何もなかったら競争にすらなりません。私が本稿を自由に書き散らして楽しんでいるのも、テーマ、字数、文体、納期などの制限があるからです。

 すぐに考えが浮かばないのは、範囲が広すぎて手掛かりがないからかもしれません。「あくまでも」で制限をかけて検討してみてはいかがでしょうか。

【NG】 どうやったら上司に認めてもらえるだろうか?

【OK】 あくまでも、短期的な仕事の成果という面に限って言えば、どうやったら上司に認めてもらえるだろうか?

いろんな考えが出しやすくなる

 限定をつけるもう一つのメリットは、いろんな考えを提示しやすくなることです。

 「あくまでも」で条件づけすれば、憶測、妄想、思いつき、思い込み……何でもOKとなります。大胆な考えを提示するには、もってこいのフレーズです。

 「おそらく」(多分、もしかすると)といった確からしさの程度を表す言葉とセットで使うとさらによし。控えめながらも、しっかりと主張している印象を受けます。

【OK】 あくまでも私の思い込みかもしれませんが、おそらく(もしかすると)、ウチの会社では……

 「あくまでも」は、会議をはじめとする話し合いの場でも威力を発揮します。

 異なる意見を真正面からぶつけるのは抵抗があります。「あくまでも私の個人的な意見ですが」「あくまでも思いつきのアイデアですが」と断れば、やんわりと違う考えを提示できます。発言を促す際にもハードルを下げる効果があります。

【NG】 どうやったら、もっと職場が楽しくなると思いますか?

【OK】 あくまでも、個人的な思いつきや妄想で結構です。どうやったら、もっと職場が楽しくなると思いますか?

一般論で攻められたときの対処法

 「あくまでも」の便利な使い方を最後に一つお教えしましょう。

 みんなが認める筋を追い求めるロジカルシンキングでは、一般論がそれなりの説得力を持ちます。議論をしていて、「一般的には」「普通は」「常識的に言えば」とやられると、ある程度は認めざるをえなくなります。

 しかしながら、一般論といっても、物理法則のように、地球上のいついかなる場合でも通用するわけではありません。社会の中である範囲に起きた一定の現象から導き出されたパターンに過ぎません。

 しかも、世の中はどんどん変化します。状況が変われば常識もどんどん変わります。過去の常識を現在に当てはめても合理的とはいえません。

 もし一般論で攻められたら、「あくまでも」を使って、それが成り立つ条件を指摘しましょう。その上で、新たな条件を設定して、その土俵の上で戦うようにするのです。

【NG】 こういうときは、普通は○○するものだ。そんなの常識だよ。

【OK】 あくまでも、それは日本という国の、高度経済成長期での、しかも製造業での話ですよね。果たしてそれが、グローバル化が進む今の金融業界に通用する話なのでしょうか?

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は8月11日の予定です。

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謝罪会見「トップとして責任を取るのか」への模範解答は?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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