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最強のロジカルシンキング

努力目標が「ノルマ」に化けるブラック企業の仕組み(堀 公俊)

第24回 「できれば」 精一杯風呂敷を広げて考える

日本をブラック国家にさせないために

 日本の大きな問題の一つは、言うまでもなく少子高齢化です。子どもの数がどんどん減ってくなかでお年寄りばかり増えています。このままでは人口減少に歯止めがかりません。

 そこで政府は、「希望出生率1.8」という目標を掲げました。ここ数年の出生率が1.4前後で、1.8は約30年前の水準です。全国でダントツ1位の沖縄県が今おおよそこのくらいです。そんな話を聞いて、いかが思われるでしょうか?

 かなりの方が、「そんなの無理じゃないの」と感じられるのではないかと思います。非正規雇用が増えて所得が上がらず、保育所にはなかなか入れず、育休を取るのも大変。「1人目はともかく、とても2人目や3人目なんて……」というのがホンネではないでしょうか。

 いえいえ、政府もそんなことは百も承知。だから“希望”出生率なのです。詳しい計算式は省きますが、「既婚者も未婚者も出産への障害がすべてなくなり、希望する夢が100%かなったらこの数字になります」というものです。いわば、行政が子育ての環境を整えるための「努力目標」です。

 ところが、「努力目標」が「必達目標」に変わりやすいというのが組織の性です。「できれば1.8」が「必ず1.8」になりやすいのです。組織ぐるみで不正に走った東芝の“チャレンジ”がまさにこのパターンです。多くのブラック企業も巧みに両者をすり替えて死ぬほど働かせます。

 まさか、今の政府が「産めよ増やせよ」と個人の人生の選択に圧力をかけると思いませんが、警戒しておくに越したことはありません。ブラック国家にならないために。

3つの方法で意味を絞り込む

 ロジカルシンキングでは、あいまいな言葉はあまり歓迎されません。思考が深まらず、コミュニケーションの行き違いが生まれやすいからです。たとえば、「会社を経営している」といっても、その偉さや大変さがよく分かりません。形容する言葉をつけると意味がはっきりしてきます。

【NG】 今、会社を経営しているんだ。
【OK】 今、大きな会社を経営しているんだ。

 これでも「大きい」と思う程度に個人差があります。何かと比較して相対的に表せばイメージがつかみやすくなります。

【OK】 今、地域で最大の会社を経営しているんだ。

 もちろん、一番よいのは定量化です。絶対的な数値で表せば客観的に量や程度が把握できます。

【OK】 今、年商50億円の会社を経営しているんだ。

 こんなふうに、度合いを表すのに「形容」「比較」「数値化」の3つの方法があり、後になればなるほどハッキリしてきます。内容や状況に応じて使い分けるようにしましょう。

できる範囲の最大値を見積もる

 ロジカルシンキングでは事実か原理を根拠として使います。いずれもすでに終わった過去の話であり、数値で表せば解釈がぶれることはありません。

 ところが、それらをもとにして自分の判断や行動を考えるとなると、すべて未来の話になります。少なからず意思や推測が入ってきます。

 たとえ定量化して数字で表しても、ギリギリ目一杯の目算なのか、合格スレスレの最低ラインなのか、見積もる前提によって意味合いが変わってきます。そこをハッキリしないと、誤解が生まれる恐れがでてきます。

 そこでご紹介するのが「できれば」(可能ならば、最大で、なるべく、うまくいけば)です。可能な範囲での最大値を表すフレーズです。

【NG】 年商を100億円にしたいんだ。
【OK】 年商を、できれば100億円にしたいんだ。

 こう言われると、「達成する確率は70%くらいかな」「せいぜい80~90億円くらいいければ」と本当のところがつかめるようになります。冒頭の事例でいう努力目標(チャレンジ)がこれに当たります。

未来に向けての希望や意思を表す

 「できれば」にはもう一つの用法があります。「精一杯頑張って」という意味で、希望や意思を表す時に使います。

【NG】 この仕事を最後までやりとげたいものだ。
【OK】 できれば、この仕事を何とかして最後までやりとげたいんだ。

 ここで問題となるのが、希望や意思の強さです。それが分からないと、「できれば」といっても、どれくらいできるか予想がつきません。

 そこの微妙なニュアンスを伝えるために、「できれば」にはたくさんのバリエーションがあります。ウェブ類語辞典Weblioから主なものを拾ってみましょう。

 できる限り、可能な限り、なしうる限り、なるべく、極力、状況が許す限り、支障なければ、いけるなら、可能ならば、すきあらば、あわよくば、かなうなら、状況次第で、できることなら、チャンスがあれば、チャンスが与えられれば、都合よくいけば、うまくいけば、実現できるなら、機会があるなら、機会に恵まれれば……。

 面白いことに、対義語の「少なくとも」にはこれほど豊かな表現はありません。我々の欲望に下限はあっても上限は切りがないのかもしれません。これは英語でもまったく同じです。

 先人たちが生み出してくれた豊かな語彙を、時と場合によって使い分けをする。それが解釈のブレを少なくする一つの方法です。

風呂敷を広げ過ぎたら少し畳む

 先ほど「欲望に上限はない」といいましたが、やり過ぎは禁物です。まったくの夢物語では、ロジカルシンキングを活用する余地がありません。

 あまりに風呂敷を広げすぎたときは、少し端を畳んでおきましょう。それが、前回に紹介した「とはいえ」です。

【NG】 チャンスがあれば、社長になって会社を動かしたい。
【OK】 チャンスがあれば、社長になって会社を動かしたい。とはいえ、そうやすやすと社長になれるものではない。

 こうしておけば、「根拠もなく好き勝手なことを言ういい加減な奴だ」というレッテルを貼られずにすみます。第17回で紹介した「あくまでも」も似たような使い方ができます。

【OK】 チャンスがあれば、社長になって会社を動かしたい。しかしながら、これはあくまでも私の勝手な夢であって、なりたくてなれるものではない。

 ロジカルシンキングだからといって、夢や願望を持ち出して悪いわけではありません。どれだけ成功確率が低くても、筋道が通っていれば実現の可能性はあります。ロジカルシンキングを駆使して、自らの目標に最短で到達できる筋道を考え出しましょう。

最強のロジカルシンキング」は毎週木曜更新です。次回は10月13日の予定です。

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努力目標が「ノルマ」に化けるブラック企業の仕組み(堀 公俊)

堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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