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いま求められる6つの上司力

リーダーシップ力(1)日本企業にはびこる「総論賛成・各論反対」の風習を是正するには?(西村克己)

総論賛成・各論反対を払拭するノットアグリー・バット・コミットメント

 「総論賛成・各論反対」で悩まされる方も多いのではないでしょうか。方針に沿って進めたはずが、実行段階になると反対されような場合です。中間管理職には上司と部下の2つの立場があります。上司の立場では、部下たちを方針レベルで納得させたはずなのに、役割分担すると不平不満が出てくる。部下としての立場では、実行段階になると「それを賛成した覚えがない」と否定されるのです。リーダーシップは、部下たちの納得度の大きさが秘訣なのです。

1.「総論賛成・各論反対」の企業がなぜ多いのか

 「総論賛成・各論反対」とは、方針レベルとしての総論は賛成するが、方策が具体的になると、反対意見が続出するような状況です。

 「情報を共有して、営業のノウハウを高めよう」という方針を立てたとします。しかし、自分たちに影響がある対策になると、「それはやりたくない」と反対するのです。たとえば、「私が蓄積したノウハウを他の人には教えたくない」とか、「情報提供は面倒、手間がかかるだけだ」と反対するのです。

 「総論賛成・各論反対」が当たり前の企業が多いのはなぜでしょうか。それは、方針決定の段階で議論が足りていないために、抽象的な方針しか理解していないからです。方針がどのような影響を与えるかを考えないまま、思いつきや思い込みで安易に方針を決めることに起因します。抽象度が高すぎて理解できていないまま方針が決められるため、具体化した段階で初めて話が違うことに気づくのです。

 また、関係者や部下が納得していないまま方針を決めることも、各論反対の温床になります。「上司が方針を決めたのだから、部下はそれに従うべきだ」と上司は考えます。しかし、上司が決めた方針自体が的外れかもしれません。

 たとえば、「売り上げが伸びないのは、広告量が足りないから」と考えたとします。しかし実際は、「品ぞろえが悪い、品質が悪く安っぽく見えるから顧客が買わない」ために売り上げが伸びないのかもしれません。顧客が求めていないことを営業方針に掲げても、無意味な努力をする状態に陥ります。

2.理想的な会議は、戦国時代の作戦会議

 上司が思いつきや思い込みで的外れの方針を立てるのを防ぐためには、どうすればいいのでしょうか。また、実態に沿っていて成果につながる方針は、どうすれば立てられるのでしょうか。

 方針が的を射ていて、かつ部下たちが納得できる各論になるヒントは、日本の戦国時代の作戦会議にあります。なぜかといえば、間違った方針を立てると敗北し、国を失い、命も落としかねないからです。つまり真剣勝負です。

 戦国時代の作戦会議は、敵国がせめてくる場合か、領土拡大を狙う場合に行われました。総大将が正面に座って、ナンバー2以下は2列に向かい合って座ります。総大将は黙って目を閉じて腕組みをします。総大将が口を挟むと、ナンバー2以下は意見が自由に言えないからです。

 作戦会議が始まると、ナンバー2以下は、上下関係を無視して、対等な立場で作戦に関する議論をします。自国と敵国の実情である事実もきちんと把握します。そして、攻めるか、守るか、和睦するか、攻めてくる敵国以外の他国と同盟を結んで挟み撃ちにするかなどを議論します。

 議論が十分出尽くしたら、総大将はおもむろに作戦の意思決定をします。総大将が決めたら、反対意見の議論を交わした者でも全面的に従います。また議論で対立した者同士は、議論が終わった段階で、恨みなしで気持ちをリセットします。総大将の方針に従えないのであれば謀反と同じです。

3.ノットアグリー・バット・コミットメントで一丸となって取り組む

リーダーシップ力(1)日本企業にはびこる「総論賛成・各論反対」の風習を是正するには?(西村克己)

 米国の企業でも、方針を意思決定する前に、戦国時代の作戦会議の方式を採用しています。総大将にあたるリーダーも1人のメンバーとして参加し、フラットな関係で議論を進めます。リーダーへの反対意見も自由です。

 議論が十分に尽くされた段階で話し合いをやめ、リーダーは方針を意思決定します。リーダーが方針を決めたら、部下たちはそれを全面的に受け入れます。反対意見を述べていた部下も方針に従うのです。

 「ノットアグリー・バット・コミットメント」というルールがあります。決定には賛成できない(ノットアグリー)、しかし(バット)、実行については約束する(コミットメント)という意味です。

 それが成り立つためには、「関係者で十分議論を尽くして最善の方針を探索する」という前提が伴います。なお、コミットメントとは、「何があっても言い訳をせず、必ず約束を果たす」という、契約レベルの意味です。

 さらに、「コミットメントできない者は去れ」というルールがあります。「反対意見で邪魔をする者は不要である」を徹底します。ですから、方針が決まると、個人の賛成や反対の意見に関わらず、コミットメントのために一丸となって前進するのです。

 理想的な会議は、戦国時代の作戦会議なのです。今の日本企業に欠けている会議方式ではないでしょうか。

4.いきなり収束しないで、「発散-収束」をワンセットで考える

リーダーシップ力(1)日本企業にはびこる「総論賛成・各論反対」の風習を是正するには?(西村克己)

 戦国時代の作戦会議では、「アイデア出しと評価を分離」しています。それこそが最も日本企業に足りない以前に欠けているものです。

 アイデア出しを簡潔に代用するために、一言で「発散」と呼びます。情報を整理して優先順位を付けて評価することを、一言で「収束」と呼びます。「発散-収束」をワンセットで考えることが大切なのです。

 ところが私たちの多くは、結論を急ぐために「いきなり収束」するのです。限られた情報や思い込みのこだわりで、すぐに結論を出してしまうのです。その結果、的外れの方針、的外れの努力が増えるのです。

 たとえば、営業部長が部下を集めて、「売上拡大のアイデアを出せ」と意見を出させます。部下たちはへたに発言すると仕事が増えるので、黙ってノーアイデアのフリをします。

 上司もしびれを切らして個人を指名します。「君はどうかな。1つくらいアイデアがあるだろう」と迫ります。仕方がないので「こういうアイデアはどうでしょうか……」と発言すると、上司は食いつきます。「いいねえ~君。今日から君が担当者だ。明日までに詳しい企画書を提出してくれ」とその場は解散です。

 上記のやり方の何が問題なのでしょうか。問題は大きく2つあります。1つめは、言い出しっぺが担当者なので、自発的に発言しようとする人がいなくなること。2つめは、アイデアを出したとたんに評価しています。もっと優れたアイデアがあるかもしれないという可能性をつぶしているのです。

 アイデアを出すたびに善し悪しの評価すると、アイデアが出なくなります。よい評価をもらうと、担当者になって仕事が増えます。悪い評価をされると、アイデアを出す気力が失せます。

 戦国時代の作戦会議では、「アイデア出しと評価を分離」しているから、さまざまな意見が多面的に議論できるのです。総大将がいちいち口を出すと、評価をすることになるので、自由に意見が言えなくなるのです。

 総論賛成・各論反対から解放されるためには、戦国時代の作戦会議のように、部下たちの意見をどんどん引き出してから方針を決めましょう。リーダーシップは、部下たちの納得度の大きさが秘訣なのです。

5.新しいチャレンジにはフラットな組織で解決策を出し合う

 私はかつて新卒で、富士フイルムに入社しました。富士フイルムといえば、かつては銀塩フイルムがドル箱でした。しかし、同業のコダックが経営に行き詰まったのに対し、富士フイルムは高収益体質を現在でも維持しています。なぜ富士フイルムの経営は安定しているのでしょうか。

 それは勤務経験上、「企業風土にある」と断言できます。少なくともわたしが在籍していた時代には、戦国時代の作戦会議の風土があったのです。

 顕在化した問題、潜在化した問題を含めて、それらを正面から受けとめるKT法(ケプナー・トリゴー法)が根底にありました。

 KT法は、状況把握(SA;Situation Appraisal)、問題分析(PA;Problem Analysis)、決定分析(DA;Decision Analysis)、潜在的問題分析(PPA;Potential Problem Analysis)の4つの手法で構成されています。4つは別々に切り離して使うことができます。KT法については詳細を割愛します。

 ズッコケない会社の企業風土に貢献しているのは状況把握(SA)です。SAでは、「問題を事実として把握する」「事実か判断かを区別する」「問題となる事実の影響度を評価する」ことを重視します。問題を無視しないで、きちんと正面から受けとめます。そして、議論するときは部課長も新入社員もフラットです。どの対策を講じるかは、権限を持ったその中のリーダーが意思決定します。

 社内にいると、会社の悪い面しか気になりませんが、会社を辞めると不思議と良い面が見えるものです。しかし、日本企業の多くが組織風土は江戸時代の脱藩制度のままです。一度やめたら戻れません。今の会社に不満でも、安易にやめると後悔するかもしれません(笑)。

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