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いま求められる6つの上司力

プロジェクトマネジメント力(1)あなたの会社のプロジェクトは、なぜうまくいかないのか?(西村克己)

 昇進とともにプロジェクトに参加する機会が増えているのではないでしょうか。上司力の1つに、プロジェクトを成功させる力も不可欠な時代です。しかし、プロジェクトはうまくいかないものだと考えている人が多いようです。多くの人がヤジ馬のごとく好き勝手に口出しして混乱させられた経験がトラウマになったりしています。

 プロジェクトがうまくいかない最大の理由は何でしょう。それは、既存組織とプロジェクトが全く異なる取り組みであることを理解していないからです。

1.プロジェクトは通常の業務と何が違うのか?

プロジェクトマネジメント力(1)あなたの会社のプロジェクトは、なぜうまくいかないのか?(西村克己)

 業務推進のスタイルは、既存組織とプロジェクトの大きく分けて2つあります。私たちは、既存組織のルールに基づいて、すべての業務を推進しようとします。しかしプロジェクトは臨時組織のため、既存組織のルールが全く適用できないのです。

 既存組織は、階層組織を作って、専門分野ごと(本社機能、営業、開発、生産、物流など)に組織を分割し、それぞれ役割分担や役職を決めます。継続を前提とした組織ですから、標準的な業務プロセスやノウハウの蓄積が可能です。業務のパターン化や標準化によって効率を高めます。

 一方プロジェクトは、臨時組織による取り組みです。プロジェクトの定義は、「特定の目的を達成するための臨時組織による活動」です。臨時の組織ですから、今までの業務ルールも、標準的な業務プロセスもありません。また新しい構成員による取り組みなので、「言わなくてもわかるよね」という暗黙の了解もありません。既存組織とは異なり、全く何も決まっていないところからのゼロスタートなのです。

 出張にたとえれば、2つの違いがわかりやすいでしょう。既存組織は、定期的に出張している会社や支店に出張するようなものです。いちいち地図や交通機関を調べなくても迷子になりません。一方プロジェクトは、初めての海外出張のようなものです。地図や交通機関を調べることも必要ですが、出張先の国のルールを調べるとか、綿密な行動計画を立てる必要があります。

 ところが多くの会社では、プロジェクトを既存組織と区別していません。つまり、初めての海外出張にも関わらず、何も準備しないで飛行機に飛び乗るようなものなのです。

2.プロジェクトがうまくいかない3つの主な理由

 既存組織で使われているマネジメント方式は、「組織マネジメント」です。しかしプロジェクトに必要なマネジメント方式は、「プロジェクトマネジメント」です。プロジェクトは臨時組織による取り組みですから、プロジェクトに合ったマネジメント方式、すなわちプロジェクトマネジメントが不可欠なのです。

 プロジェクトが臨時組織であるという特徴から、プロジェクトがうまくいかない3つの主な理由について考えてみましょう。

 (1)プロジェクトオーナー(意思決定者)が不在

 既存組織では、意思決定者が誰なのかは、役職によって決められています。たとえば、2つの案(解決策の候補)がある場合、どちらを採択するかの意思決定が必要になります。誰が意思決定者かは、役職と権限範囲によって決まります。

 しかし、プロジェクトは臨時組織なので、誰が意思決定者かがあいまいです。たとえば、営業と生産部門の共同プロジェクトを推進する場合、2人の部長の意見が対立すると意思決定できません。プロジェクトにも関わらず、意思決定者があいまいなまま進めてしまうのです。

 プロジェクトでは、意思決定者として、プロジェクトオーナーを決める必要があります。たとえば、2つの部門を統括している本部長がプロジェクトオーナーと決めておけば、2人の部長の意見対立を収束させることができます。また、プロジェクトのステークホルダー(利害関係者)が、好き勝手な意見を押しつけるヤジ馬状態になっても対応できます。全権委任されているプロジェクトオーナーが、プロジェクトに関する意思決定権限を発動できるのです。

 (2)プロジェクトの運用ルールがあいまい

 プロジェクトは臨時組織のため、運用ルールがあいまいです。組織体制、リーダーやメンバーの権限や役割分担などに加え、誰にどのようなタイミングで情報を円滑に伝達するのか、コミュニケーションチャネルもあいまいです。すべてがゼロスタートなのです。たとえば、定例会を明確化し、情報伝達と情報共有のために、毎週1、2時間の会議を開くことが必要です。

 プロジェクトのスローガン的なことを決めるのも効果的です。「3S(シンプル、スピード、スマイル)を守りましょう」と語呂合わせのスローガンは浸透しやすい一案です。

 (3)作業計画がないままリーダーが陣頭指揮をとる

 プロジェクトで最も重要な決めごとが、作業計画です。プロジェクトの作業計画とは、作業内容と作業プロセスを明確にすることです。そしてそれをスケジュール化して、進捗管理に生かします。

 既存組織では、すでに作業プロセスが決められています。作業標準として日常業務で遂行され、コンピューターに作業プロセスが組み込まれているものもあります。

 プロジェクトでは、作業計画がリーダーの頭の中にあるだけでは、メンバーは思うように動きません。最悪の状況は、リーダーが近くにいるメンバーをつかまえて、「次はこれをやってくれ」と、1つひとつ指示することです。メンバーの立場からすれば、1つの作業が終了すると新しい作業を指示されるため、やがて「早く作業を終わらせると仕事が増える。だから仕事をゆっくりやろう」と考えるようになります。また、新しい指示をされないように、リーダーに近寄らなくなります。

 作業計画を文書で伝えていないと、メンバーはリーダーの思うように動いてくれません。プロジェクトマネジメントでは、作業計画を作成するための手法として、WBS(ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー)があります。詳しくは次回にご紹介します。

4.プロジェクト成功の条件

 プロジェクトを成功させるためには、既存組織の上層部に対しても、2つの業務スタイル(既存組織とプロジェクト)の価値観が異なることを理解させなければいけません。また、プロジェクトマネジメントを適用すべき理由を理解させることが必要です。

 (1)臨時組織に必要な条件の明確化

 プロジェクトは臨時組織ですから、プロジェクトオーナー(意思決定者)を明確化することは不可欠です。また、プロジェクトの運用ルールや組織体制も同様です。作業計画とスケジュールを作成しなければ、メンバーはリーダーの思うようには動けません。

 目的があいまいなプロジェクトは路頭に迷います。プロジェクトが進むにつれて、「そんなつもりはなかった」というような方向に、目的を変更されるのです。その結果、プロジェクトのやり直しの多発によるモグラたたき状態に陥ります。そしてゴール(終着点)を見失ったまま、プロジェクトは崩壊していくのです。

 (2)プロジェクトの5つのプロセスを理解する

プロジェクトマネジメント力(1)あなたの会社のプロジェクトは、なぜうまくいかないのか?(西村克己)

 臨時組織は継続を前提として、月次、四半期、年次という時間軸で進捗管理します。しかしプロジェクトは臨時組織なので、始めと終わりがあります。始めから終わりまでに、「立ち上げ~計画~実行~コントロール~終結」の5つのプロセスをたどります。

 「立ち上げ」は、プロジェクトのスタートを認識するとともに、その活動を遂行することをコミットメント(約束)します。「計画」は、プロジェクトが満たすべき目的とスコープ(範囲)を明確化し、プロジェクト計画を立案します。

 「実行」は、計画を遂行するために、人材や経営資源を効果的に運用します。「コントロール」は、プロジェクト目的に合致した成果が生み出せるように、プロジェクトの進捗の成果測定、モニタリング(実行状況や資源の利用状況を測定すること)とともに修正のアクションを行います。「実行」と「コントロール」は繰り返されます。「終結」では、プロジェクトの完了報告(報告書の作成と報告会の実施)や納品など経て、完了の手続きを行います。

 (3)プロジェクト計画書の作成

 プロセス2つめの「計画」では、プロジェクト計画書の作成を行います。プロジェクトは終結前提の取り組みです。計画段階で、どのような状態になったら終結できるかを、具体的に文書化します。

 目的と達成目標は、プロジェクトの終結には不可欠です。達成目標は、目的をさらに具体化したものです。QCD(Quality;品質、Cost;コスト、Delivery;納期)を数値化することで、どの水準に達成すればプロジェクトが終結できるかを明記します。

 目的と達成目標に加えて、アウトプットリスト(アウトプットの箇条書き)を計画書の中に入れておけば、終結の条件が整っているか否かが明確になります。リストに明記されたアウトプットが完成すれば、堂々と終結宣言ができるのです。

 プロジェクト計画書は、大きく2つのブロックに分けられます。前半部分は「要件定義」です。要件定義とは、「このプロジェクトで何を実現したいのか」を定義する部分です。達成目標やアウトプットリストのほか、達成後のあるべき姿を定義します。

 後半部分は「実行計画」です。実行計画は、「どうやって実行するのか」を明確化する部分です。作業計画、スケジュール、推進体制など、具体的な手段を明記します。

5.プロジェクトマネジメントをどう身につけるのか

 プロジェクト推進に不可欠なプロジェクトマネジメントはどうやって身につけるのでしょうか。米国のPMI(プロジェクトマネジメント協会)が制定したPMBOK(Project Management Body of Knowledge;ピンボック)を学習することが早道です。

 PMBOKの始まりは、米国の有人月面探査のアポロ計画です。アポロ計画は、さまざまな専門分野の人々が集まり、「1960年代に人類を月に送って無事帰還させる」というミッションでした。さまざまな専門家をフル活用して目標を達成するために、プロジェクトマネジメントが必要不可欠だったのです。

 プロジェクトを成功させるためには、プロジェクトマネジメントを学習することが第一歩です。プロジェクトなのに、組織マネジメント(既存組織に適用されるマネジメント方式)を適用していたのでは、確実に失敗してしまいます。

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