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アンタはどう思うんや? チーム育てた幸之助の説得術(堀 公俊)

第18回 どうしたら 自ら動くチームをつくるには?

アンタはどう思うんや?

 パナソニックの創業者の松下幸之助といえば、数々の名言を残した経営者の一人です。中でも有名なのが「あんた、どう思う?」という質問です。

 たとえば、氏に薫陶を受けた岩井虔氏は、来る日も来る日も質問攻めにあったそうです。

 「布団の中でこんなことを考えたんやけど、君どう思う?」「新聞見とったら、こんどの台風で崖崩れが何件もあった。君らどう思う?」と(岩井虔『松下幸之助 元気と勇気がわいてくる話』PHP研究所)。

 いきなりトップからそんな質問をされたら、目を白黒させてしまいますよね。まさに、準備しようのない試験を、毎日のように繰り返されるようなものです。何と返事すればいいのか、大いに悩んだことでしょう。

 しかしながら、そんな問答を重ねるうちに、社長の意見に賛成だろうが反対だろうが、「私はこう思います」と格好つけずにハッキリ言えばいいんだと、少しずつ分かってきたそうです。

 他に私が好きなのは「それでお客様は喜びますか?」という質問です。顧客志向をたたき込むのに、これほどシンプルで力強い質問はありません。

 優れたリーダーというと、自らの信念に基づいてチームをグイグイと引っ張っていくイメージがあります。もちろん、それも必要なことですが、チーム自らが考え、行動するようにしないと、どこかで行きづまってしまいます。チームを育てるためには、リーダーの質問が鍵となるのです。

「他者説得」より「自己説得」を

 こちらが期待する行動を相手にとらせるのに大きく2つの方法があります。

 一つは、「どうしてほしいか?」「何が必要か?」を説明して、そのとおりに動いてもらうやり方です。「他者説得」と呼びます。もう一つは、どんな行動が望ましいかを相手に考えさせて、自らの判断と意思で動くようにする「自己説得」です。

 人は、自分のことは自分で決めたいと思っています。他人から一方的に説得されたり、選択肢のない中で決めるのは、好きではありません。首尾よく説得に応じたとしても、後悔や蒸し返しをしたりする恐れがあります。他者説得では納得感が乏しいのです。

 それに対して、自分の考えで決めたとなると、納得感が高い上に、「これでよかったんだ」と自分で自分を説得するようになります。「一貫した人でありたい」と思う心理とあいまって、どこまでも決めたことを貫き通そうとします。

 メンバーに何か依頼をするときは、なるべくなら自己説得を使いたいところ。活用すべきフレーズとしては「どうしたら」(どうやったら、何をすれば、どんなことが)です。

NG 「売り上げが落ちている。すぐに原因を調べてくれないか」(他者説得)
OK 「売り上げが落ちている。どうしたらいいと思う?(何ができるだろうか?)」(自己説得)

 ただし、これはあくまでも考えさせるための質問であって、相手の責任を追及したり、非を糾弾したりする口調にならないように。でないと、かえって自発的な行動に水を差してしまいます。

NG 「売り上げが落ちている。どうしてくれるんだ!」

期待する答えが出るまで質問をする

 こんな話をすると、「こちらが期待する答えが返ってこなかったら、どうするの?」と考える人がでてきます。結局、「そうじゃない。○○をするんだ」と、他者説得になるのではないかと言うのです。

 こちらが正解を言うのは簡単ですが、時間が許す限りギリギリまで考えさせるのに越したことはありません。返ってきた答えを元にして、さらに考えを深めるように促すようにします。

OK 「どうしたらいいと思う?」「何か対処が必要ですね」「たとえば、どんなこと?」
OK 「どうしたらいいと思う?」「とりあえず△△を……」「つまり、何をするの?」
OK 「どうしたらいいと思う?」「○○をしましょうか」「他に、ないかな?」
OK 「どうしたらいいと思う?」「Aもあるし、Bもあるし……」「中でも、どれが重要?」
OK 「どうしたらいいと思う?」「特に思いつきません」「あえて(仮に)、挙げるとしたら?」

 このあたりのフレーズについては、過去の連載で詳しく解説しました。具体化、抽象化、選択肢の拡大、優先順位付け、強制(仮定)発想など、思考をあちこちに振ることで考えが深まっていきます。詳しく知りたい方は、拙著『ワンフレーズ論理思考』(日本経済新聞出版社)をご覧ください。

 それが面倒な方は、自信を尋ねる質問をするのが近道です。自分の考えを疑ってみることで、思考が深まるからです。

OK 「どうしたらいいと思う?」「□□はどうでしょう?」「本当にそれでいいんだね?」

メンバーにあった説得の仕方がある

 とはいえ、すべての人に対して自己説得がよいとは限りません。チームメンバーを、ザックリと「やる気(will)が高いか低いか?」「能力(skill)が高いか低いか?」の2つの軸で分類して考えてみましょう。

 やる気も能力も高い人は、手出しをせずに当人に委ねるのが一番です。こちらから質問すらする必要はなく、事実や情報だけ伝えれば勝手に動いてくれます。

 一方、能力が高いのにやる気が低い人は、何らかの方法でやる気に火をつけなければ宝の持ち腐れです。そのために最適なのが、本稿で紹介した質問です。自分で考えさせ、自分の能力でできることを見つけてもらうのです。

 やる気が高くても能力が低い人は、適切なスキルが身につけられるよう、指導する必要があります。考えさせるのも結構ですが、正解を教えないといけない場面が増えてきます。

 残念ながら、やる気も能力も低い人に自己説得は使えません。他者説得で指示をして、強制的にやらせるしかありません。経験を増やすことが先です。

 こんなふうに、その人に合った依頼の仕方をしないと、親心がかえってあだになってしまいます。「メンバーが期待通り動いてくれない」と悩む人がいたら、「相手にふさわしいやり方をしているか?」をチェックしてみてはいかがでしょうか。

相手が気づくまで根気よく待ち続ける

 松下幸之助の話に戻すと、同じく薫陶を受けた江口克彦氏が著書の中でこんなエピソードを披露しています。

 ある日、江口氏は、面会予定の著名な学者について「君、どういう人か知ってるか?」と尋ねられました。突然の質問に戸惑い、精一杯の知識を披露して、どうにか役目を果たしました。

 にもかかわらず、翌日にまったく同じ質問が飛んできます。「質問したことを忘れたんだ」と思って、同じ答えをしたところ、さらに翌日も同じ質問をされたというのです。

 「ずいぶんいい加減に人の話を聴いているなあ……」と、さすがに憤りを感じた江口氏。あるときふっと思いました。質問したことを忘れているのではなく、答えが不十分だからではないかと。

 そう考え、徹夜してその人物のことを徹底的に調べ上げたところ、予想通り4度目の質問がありました。そこで30分かけて説明をした上に、内容を録音したテープまで渡すと、ようやく「よう、わかった」と得心した様子になったそうです。

 江口氏は、22年間共に仕事をする中で、「それは駄目だ。答えになっていない」と言うせりふを一度も聞かなかったそうです。同じ質問を繰り返し、本人が自分で気がつくまで根気よく待ち続ける。その姿勢に、「若い者を育ててあげたい」という愛情が感じられたと述べています。

 とても凡人にはまねのできない芸当ですが、育成とは「次の世代に未来を残す仕事」(高橋伸夫)であることを、あらためて感じさせる逸話です。

◇   ◇   ◇

アンタはどう思うんや? チーム育てた幸之助の説得術(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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