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トンデモ本の「口説きのテクニック」正しく使うには?(堀 公俊)

第21回 「まずは」 ハードルを下げればやる気になる

トンデモ本を真に受けないで!

 最近、人の心を操作する心理テクニックを説く本が書店をにぎわせています。読み物としては面白いのですが、誤解を招く紹介の仕方をされているものもあり、うのみは危険です。

 たとえば、「ドア・イン・ザ・フェイス」という技法があります。何かを依頼するのに、最初は小さなお願いを承諾してもらい、段階的に要求を釣り上げていくテクニックです。「鉛筆貸して?」「いいよ」「携帯貸して?」「はあ」「パソコン貸して?」「まあ、いいけど……」といったように。

 いきなり、「パソコン貸して?」と頼んでも断られる恐れがあります。いったん願いを聞き入れた後だと、一貫した態度を取ろうとして、ノーと言いにくくなります。それを利用しているわけです。

 この逆が、「フェイス・イン・ザ・ドア」です。最初に過大な要求をして、拒否されたところで本来の小さなお願いを承諾してもらうテクニックです。

 「車貸して?」「無理」「じゃあ、パソコン貸して?」「まあ、それなら……」といったやり方になります。依頼を断ると一種の罪悪感が芽生え、期待に応えようという気持ちになるからです。

 そもそも、これらはマーケティングの技法として開発されたものであり、一過性の関係を前提にしています。家族、恋人、友人、同僚など、長期にわたる人間関係で使うときは注意が必要です。

 考えてもみてください。これで口説かれたことをあなたの恋人が知ったら、どう思うでしょうか。かえって、信頼関係を損なうかもしれません。技と心は常に一体のものであり、カタチだけ技をまねると大やけどしかねません。それは、本稿でご紹介しているテクニックも同様です。

小さなハードルから始めよう

 前回は、人に何かを依頼するときは、効果性、すなわち効用や便益を訴えることが大切だ、という話をしました。加えて、一歩前に踏み出してもらうには、「こうやればできる」「あなたなら可能だ」と「実現性」を説くことが鍵になってきます。

 その時に使いたいフレーズが「まずは」(ひとまず、一つだけ、とりあえず)です。一時にたくさんのお願いすると腰が引けるので、依頼事項を絞り込んで、ハードルを低くしておくのです。

NG 「店頭調査をしてほしいんだ。調査項目を決めて、調査する店を選び、いつ調査をするのかを考え……」
OK 「店頭調査をしてほしいんだ。まずは、どんな項目を調査するかを提案してほしい」

 これは、「ドア・イン・ザ・フェイス」とは違います。依頼の全体像を示した上で、取りかかりやすい項目を示しているからです。あくまでも、依頼内容をいくつかの塊に分解をして、考えやすくしているだけ。いわば、実現への道筋を示しているのに過ぎません。

 OK 「項目の選定ができたんだね。次に(さらに)調査する店を選んでほしいな」

 時には、実現できることを示すために、お手本としてやってみせることも大切です。まさに、日本海軍連合艦隊司令長官の山本五十六が遺した名言「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」です。

OK 「まずは、どんな項目を調査するかを提案してほしい。たとえば(具体的には)、購買動機とか、購入後の評価とか、昨年やったものを参考にしながら……」

リソースを集め、障害を取り除く

 実現性を示すのにもう一つ大切なのが、必要な資源(リソース)を集めることです。ヒト、モノ、カネ、情報、時間といった資源がないと、いくらやる気になっても実現できません。足らないものは補ってあげる必要があります。

OK 「もし、分からない点があったら田中さんに相談するといいよ」

 資源には、大きく2種類があります。形のある資源と形のない資源です。以下のリストを参考にしながら、どの資源を投入すれば実現できるかを考えてみましょう。

形のある資源:資金、設備、インフラ、システム、人、土地、環境、自然……
形のない資源:知識、情報、経験、スキル、ノウハウ、制度、権限、時間、やる気、関係……

 ただし、いくらふんだんに資源を集めても、結局一番少ないところが全体の効率を決めます。ボトルネック(瓶の最も細いところ)が制約となって、実現への障害になっているのです。

 ボトルネックを広げることで、全体の流れがよくなり、他の資源が生きてきます。どの資源が一番の制約となっているか見極めることが、実現性を考える上で大切となってきます。

考え方のフレームを転換してみる

 実際には、必要な資源がすべて完璧にそろっていることはまれです。どうやってひねり出すか知恵が求められます。たとえば、「時間がない」と依頼を断られたからといって、簡単に引き下がるわけにはいきません。

NG 「残念ながら、時間がないから無理なんです」
OK 「では、時間があれば、やれるわけですね。どうやった時間が捻出できますか?」
OK 「たとえば、仕事の優先順位を変えれば、時間は生まれるのでは?」
OK 「あるいは、誰にどう助けてもらったら、時間ができるでしょうか?」

 こういった切り返しを「リフレーミング」と呼びます。考え方の枠組み(フレーム)を転換することで、新たなアイデアを生み出すテクニックです。

 多くの場合、「資源がないからできない」という話は言い訳に過ぎません。「ない」と思いこんで諦めているだけで、上手に切り返して、「諦めの壁」を粉砕してしまいましょう。

NG 「残念ながら、私にはやる権限がありません」
OK 「権限のある人に、どうやったら影響を与えることができますか?」

最後は自信をもって太鼓判を押す

 そして、最後は、相手を勇気づけることをお忘れなく。自信を持って、実現性に太鼓判を押すのです。

OK 「大丈夫、君ならきっとできるよ」

 だからといって、任せっぱなしにするのではなく、積極的にサポートを買って出ることも忘れてはいけません。依頼を受けた人が孤立無援、孤軍奮闘にならないように。

OK 「悩むようなことがあれば、いつでも気軽に相談してよ」
OK 「私が手伝えることがあったら、遠慮なく言ってね」

 ということで、何回かにわたり、チームメンバーに気持ち良く動いてもらうためのポイントをお話してきました。まとめると、一方的に相手を説得するのではなく、相手の気持ちに配慮しつつ、「必要性」「効果性」「実現性」を示して、なるべく自己説得に近いかたちにもっていくことです。

 言い方一つで相手の振る舞いがまるで変わってきます。面倒なようでも、(特に、若い世代に対しては)、結果的にはこれが一番の近道となります。「仕事だからやるのは当たり前」と思わず、丁寧なコミュニケーションを心がけるようにしましょう。

◇   ◇   ◇

トンデモ本の「口説きのテクニック」正しく使うには?(堀 公俊)
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
 1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ワンフレーズ論理思考』『ファシリテーション・ベーシックス』『問題解決フレームワーク大全』(いずれも日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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